梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「本当はこわくない新型コロナウィルス」(井上正康・方丈社・2020年)通読・12《第4章 死者数から見た日本と東アジアの特異性》

《第4章》死者数から見た日本と東アジアの特異性(要約)
■死者数が少なかった日本
・日本の死者数は3月上旬から増え始め、3月末で81名だった。6月頃に1千人に達する可能性が予測されたが、実際には6月29日の時点で972人だった。その後の重症者や死者の増加は緩やかになり、実質的な被害はほとんどなくなった。4月上旬にはそのような状況がわかっていたにもかかわらず、専門家会議のメンバーから「何もしなければ40万人も死亡する」との驚愕的予測が伝えられた。それに驚いた安部前首相」が慌てて緊急事態宣言を出すことになった。この40万人という数字は、約100年前のスペイン風邪の後で考案された感染症の数理解析モデル(SIRモデル)で算出された値とのことだった。スペイン風邪の際の日本人の死者も40万人だった。この数理解析法では、感染状況に応じて特定の数値を入力する必要があり、その数値によって結果が大きく左右される。この専門家は、当時の日本の感染状況ではなく、死者数が多かったドイツでの数値を入力して計算したと述べている。
・しかし、8月31日の時点でも日本の死者数は1334人で欧米の数百分の一以下にとどまっており40万人とは大きく乖離した状況である。


■効果が見えないロックダウン
・国境封鎖やロックダウンは効果がなかったという意見が主流になっている。当初、英国とスウェーデンでは集団免疫力を高める戦略がとられたが、英国は途中から方針を転換してロックダウン方式に切り替えた。多くの国々では、ロックダウンを契機に感染者が一時的に増加するという不思議な現象が見られた。
・一方、スウェーデンでは高齢者を集中的にケアして外出を控えさせ、医療崩壊を抑える対策がとられた。他は通常通り、普段と変わらない生活を重ねたが、感染者が急激に増加することもなく同じペースで増加傾向をたどり、最終的には英国の半数近い死者が出た。
・ロックダウンした国としなかった国での100万人あたりの死者数を4月30日時点で比較すると・・・。(表3 国別の活動制限の厳しさと死亡率)
*5月16日現在の死者数(100万人あたり)
《国境封鎖・ロックダウン組》
・スペイン587.5 イタリア522.0 イギリス504.6 フランス422.7 アメリカ266.1 ドイツ94.3 台湾0.3 韓国5.1 シンガポール3.8《緩やか組》
・スウェーデン260.5 フィリピン7.7 日本5.6 インドネシア4.4
 中国(武漢のみ封鎖)3.2 インド2.0 タイ0.8
・ロックダウンした欧米の国々からは、非常に多くの死者が出ている。スウェーデンでも高いレベルになった。
・一方、厳しい規制をしなかった日本でも欧米に比べて2桁以下の低い死者数にとどまっている。東アジアの国々も低い死亡率だ。
・これらの事実は、新型コロナによる死亡率には、厳しいロックダウンなどよりも民族や地域による差がはるかに大きいことを示唆している。


【感想】
・日本および東アジアで死亡者が少なかったのは、「民族や地域による差」が大きいということである。上の表で、5月中旬の時点では、インドの死者は少なかったが、以後急増して、1月7日現在15万0336人(感染者は1039万5278人なので致死率は1.4%)、インドの人口は13億5264万人なので100万人あたりの死者数は111.1人という計算になる。インドは南アジアなのでので欧米と東アジアの中間的な値になるのだろうか。中国との国境も封鎖していないので、弱毒型のS型、K型のウィルスも蔓延したと思われるが、被害を抑えられなかったのはなぜなのか。今後、解き明かすべき課題ではないだろうか。

(2021.1.9)