梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

日本学術会議、会員「任命拒否」

 首相が日本学術会議の会員を「任命拒否」した法的根拠として、政府は憲法第13条「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」の条文を挙げている。日本学術会議の会員は国家公務員だから、それを選定したり、罷免したりする権利が、《国民には》ある。だから、その権利を行使して、《国民である》首相は選定(任命)をしなかった、とでもいうのだろうか。しかも、政府は、だから「(日本学術会議の)推薦の通りに任命すべき義務があるとまで言えない」と主張しているそうだ。(10月7日付け「東京新聞」朝刊・1面)
 権利があるのだから、義務があるはずがない。政府はなぜ「首相には、会員(公務員)を任命しない権利がある」と主張(強弁)しないのだろうか。はたして行政府の長である首相の《権限》と、憲法でいう《国民固有の権利》を同列・同次元で《同一視》していいものやら・・・、「無理があるかもしれない」といった戸惑いが、私には感じられる。
 要は、国家公務員である「日本学術会議」の会員をどのような《手続き》で選定するか、またそれを罷免しようとする場合、どのような《手続き》をするかという点が、国民の間で明確になっていないという問題が生じているということである。 
 学術会員として相応しいか、相応しくないか、それを判断するのは国民でなければならない。それを今、(国民の代表である)首相が「代行」している《つもり》なのだろう。 いずれにせよ、「学の独立」「学問の自由」「思想・信条の自由」の危機といった問題を論じる前に、会員(国家公務員)の選定・罷免の《手続き》を明確化することが先決だと、私は思う。
(2020.10.9)