梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

入歯完成

 ほぼ1年3か月ぶりに、歯が生え揃った。2年前に虫歯治療を始め、1年前に左下奥歯を3本抜き、3か月前に左上奥歯を2本抜き、そして今日、めでたく抜いた奥歯5本の「入れ歯」が完成したというわけである。医師は鏡を見せて「取り外しの練習をしましょう」という。「バネのところを下に引っ張ってください」まず上の入れ歯を外すことは容易にできた。「ではこの小さい方を手前にして着けてみてきださい」それがなかなかむずかしい。いくら鏡を見ても方向や角度が定まらないのだ。「むずかしいですよね。でも、すぐになれますから、練習してみてください」次は下の入れ歯も同様に外し、着ける。こちらはなぜか簡単にできた。「どうですか。痛くないですか」「はい」「では、注意事項を読んでみましょう」とパンフレットを提示した。要するに、①柔らかいものから食べ始めること、②菌が繁殖しやすいので、毎日、洗浄剤で除菌すること、③装着の際に雑に扱うと破損や変形の原因になるので、気をつけること、④痛みがあるときは我慢せずに使用を中止して受診すること、⑤痛みがなくても半年に1度は検査を受けること、であった。
 また「着け初めは違和感があり、慣れるまでに時間がかかる」ともパンフレットには書かれていたが、なるほど、なるほど口の中は《違和感の塊》という感じで、闖入した異物のために、食べたり飲んだりする《楽しみ》は消え失せた。2年前から、吐き気、腹部膨満感のために食欲は半減していたので、それほどのショックはないが、「歯が揃ったら何でもパクパク食べられる」という夢は幻想に終わった。
 でも、そのうちに慣れるだろう。今後は残りの歯が虫歯にならぬよう、メンテナンスに細心の注意を払う必要がある。ともかくも、ほぼ2年間にわたった虫歯治療は終了した。感謝。(2020.5.1)