梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

新型コロナウィルス感染・《メディアの役割》

 連日、メディアは「新型コロナウィルス感染症」について報じている。情報を売っているのだから「稼ぐ」ことが一義ということで、センセーショナルな物言いで読者・視聴者を煽っている。曰く「国内感染1万人超す 9日間で倍増」(「東京新聞」4月20日付け朝刊・1面)、曰く「感染者200人超え“危機感”高まる東京」(「every」・日本テレビ)、曰く「国内感染者1万人突破▽各地で院内感染頻発 新規入院・外来中止も増える急患たらい回し」(「ひるおび」・TBSテレビ」・・・。
 メディアの役割は《社会の木鐸》、正確な情報を国民に提供して、正しい認識、適切な判断と行動を助けるものでなければならない。しばしば「数値」(今回の場合は、感染者数、死亡者数等)が強調されるが、それがどのような意味を持つか、についても報じなければならない、と私は思う。
 例えば、日本の死亡者は4月18日現在249人、それに比べて米国は3万8903人、だから日本は米国の160分の1にも満たない、そこまでは数字の上では正しいが、双方を数値だけで比べることは意味がない。日本と米国では「事情が全く異なる」からである。例えば人口、例えば民族、例えば風土、例えば生活習慣、そして何よりも検査者数には大きな差がある。条件を同じにしなければ比べても意味がない。メディアは、まずそのことを肝銘すべきである。ちなみに死者数の増加率を3日前の16日と比べると米国は1.25倍、日本は1.24倍で大差はない、前日18日と比べると米国1.04倍、日本1.09倍で日本の方が高いことがわかる。つまり、これから米国の死者は増え方が減るが、日本は増え方が高まるかもしれない、ということをメディアは国民に伝えるべきなのである。
 国内の状況(「厚生労働省ホームページ」)に目を向けると、2週間前に比べてPCR検査数は2.63倍に増えたが、陽性者数(3.5倍)、要入院者数(3.09倍)、軽中度者数(3.14倍)は、それ以上に増えている。死者数は2.33倍で(検査者数の増加率より)下回っているが、退院者(2.29倍)も増えていない。
また、東京の感染者は3千人を突破、3082人となったが、2週間前(4月9日)と比べると、2.98倍の増加率であり、それ以上に増えているのが広島(8.8倍)、沖縄(7.18倍)、長野(4.3倍)、群馬(4.19倍)、石川(4.13倍)、山形(4.09倍)、滋賀(3.94倍)、山口(3.75倍)、福島(3.87倍)、埼玉(3.60倍)、宮城(3.60倍)、山梨(3.5倍)、静岡(3.05倍)といった地域なのである。そうした該当する地域住民に、メディアは特に注意を喚起する必要があるのだ。感染者数を数値だけで比べても意味がない。検査者数の違いが感染者数を左右することは当然だから、もし感染者数を示すなら隣に検査者数を並記して、感染率を明らかにしなければならない。それもメディアの役割であり責務である、と私は思う。さらに言えば、死者数も然り、「新型コロナウィルス感染症」による死者数を公表するなら、他の死因による死者数を明らかにすべきである。一日に3千人以上が死亡していると思われるが、そのうちの何%を占めるのかくらいは、報じて当然だろう。国内に「新型コロナウィルス感染症」による死者しかいないような《錯覚》を与えてはならない。
(2020.4.20)