梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

温泉素描・増富温泉「津金楼」(山梨県)

 JR中央本線韮崎駅からバスで約1時間、増富温泉「津金楼」に投宿する。ホームページでは、「津金楼の歴史」について以下のように説明されている。〈創業明治18年、現在は4代目が活躍中です。《百有余年の歴史と、長く親しまれる温かな「おもてなし」》 当館は、明治18年(1875)に初代津金胤林(たねしげ)によって山梨県須玉町津金の地において創業いたしました。逐中、須玉町増富の地において鉱泉湧出に着目し始め、大正3年(1914)に新築し、移転しました。米国在住中の初代の弟、胤和(たねかず)からの通信により、日本最初のラジウム含有量多き鉱泉なる事を発表し人々を驚かせました。創業より数えまして百有余年、その間この須玉の地を訪れるお客様の変わらぬご愛顧に感謝いたいております。ラドン含有量が豊富な温泉質 当温泉は昭和1 2 ・ 1 3 年の2回東京大学教授理学博士、木村健二郎先生のご検査によりラドン含有量は多量に含まれていると折紙をつけられました。以来、多くの学者の研究により、その事が裏付けられております。なお、空気清澄、豊富な紫タト線と多量のエマチオンガスの発生は入浴後爽快な気分となり、居ながらにして健康増進の最適地です。〉まさに、「看板に偽りなし」、津金楼は、身も心も傷ついた現代人にとっては、至福のひとときを過ごせる「桃源郷」に他ならない、と私は思う。来館したのは2回目、ほぼ1年振りだが、その《温かな「おもてなし」》に変わるところはなかった。入浴時間は7時から21時、朝食は7時40分、夕食17時30分と決められており、その「病院並」のスケジュールが、健康増進(静養・療養・治療)の源であることは間違いない。極め付きは、何と言っても「源泉」の風情であろうか、前出のホームページでは以下のように述べられている。〈当館の入浴案内 2階の大浴場(男女各1)と4階の家族風呂がご利用いただけます。源泉は、26〜30℃。あがり湯は、42℃位に沸かしてあります。※人の手を加えていないため、気温により変動します。当館のあがり湯と源泉はともにラジウム100%を使用しています。加水は、いたしておりません。あがり湯は源泉が低温の為、クリーニング店などで使用している蒸気ボイラーで沸かしております。お客様の体調に合わせて入浴してください。もし、ご心配事がありましたら、入浴指導員がおりますで、お気軽にご相談ください。〉入浴客は、ほとんどが療養・治療を目的としているのであろう、あがり湯で十分に体を温め、源泉に浸かることを繰り返す。大浴場とは名ばかりで、10人も入れば満杯状態だが、皆一様に沈思黙考の態で、静寂が保たれている。皆それぞれが瞑目し、鶴のように、鹿のように、人もまた「温かな《おもてなし》を享受している様は、まさにこの世の天国、生きながらにして極楽浄土を堪能しているかに見える。ラジウム泉の効果は、ジワジワとあらわれ、ヘルシープランの献立とも相まって、文字通り「夢見心地」の三日間を過ごすことができたのであった。感謝。(2013.10.19)