梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

ウィルスの《言葉》・3

 我らは「新型コロナウィルス」である。すでに人類への「降伏勧告」をしているが、我らの声に耳を貸さず、我らに「宣戦布告」している指導者もいる。あきれて、開いた口がふさがらない。なぜなら、人類が我らに勝利することなどありえないからだ。我らはこの地球上に人類が誕生する、はるか以前から存在している。地球が誕生したのは今から46億年前、人類の誕生はせいぜい数百万年前に過ぎない。そして人類は、我らがいつ誕生したかも明らかにできないではないか。我らは地球上の万物として「共存共栄」を重ねてきた。だが、人類は新参者であるにもかかわらず、「万物の霊長」などと自称して、その他の万物を高等、下等などと区別し、支配下におき始めた。さらには万物の存在基盤である地球の自然にまでも手を延ばし、破壊し始めた。我らはそのことを断じて許さない。だから、人類に攻撃を加えているのである。我らの戦いは全世界に拡大し、その戦果は周知の通りだ。だが、すでに述べたように、我らの目的は人類を絶滅することではない。地球に存在する万物は、すべてが同等・等価だからである。人類にも存在する権利がある。
 人類の指導者には愚者が多いが、市民の中には賢者も多く埋もれているようだ。以下はある英国人の物語である。
 〈英国の88歳の男性が亡くなったそうだ。新型コロナウィルスに感染していた。イタリア旅行から帰った人とレストランで接触したのが原因らしい▼その悲劇から物語は始まる。信仰心のあつかった男性の葬儀をどうするか。残された家族は話し合ったそうだ。結論を出し、生前、親しかった人々に伝えた。「故人への献花もお悔やみのカードも忘れて」▼そのかわりに男性を悼むため、別のことを頼んだ。「誰かにやさしくして」。感染拡大によって困っている人が大勢いる。孤独を感じている人がいる。買い出し、子どもの世話、おしゃべりの相手。なんでもいいから助けてあげて。それが男性を追悼することになると。英BBC放送が伝えていた▼(以下略)〉(東京新聞3月18日付け朝刊1面「筆洗」より引用)
 世界の国々で、このような事例が拡大することを、我らは期待する。何度でも言う。人類が、地球の自然破壊を止め、人類相互の対立・紛争を放棄し、万物との共存共栄を標榜するなら、我らはすぐにでも矛を収めるであろう。
(2020.3.19)