梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

子育ての「基本」

 子育ての「基本」は、子どもを両手でしっかりと「抱きしめる」ことである。そのとき、大切なことは、抱きしめられる子どもと抱きしめる人(主として親)の双方が、ともに「心地よい」という感覚、感情を共有できるかどうかということである。  
 最近では、「抱っこ紐」を利用する親をよく見かける。親は両手で子どもを抱きしめなくても、また子どもは親にしがみつかなくても安定している。移動の手段としては、誠に便利かもしれない。しかし、それで「心地よい」という感覚、感情を共有できるだろうか。
 「抱きしめる」ということは、相互に向かい合い、身体をピッタリと重ね合わせることによって双方の息づかい(呼吸)、温もり(体温)、鼓動(血流)を感じ合うことである。そのことによって、お互いが「生きている」ことを確認し、その喜びを共感できるのである。子どもは、両手を広げ「抱っこ!」を要求する。ただ歩くことに疲れたときだけではない。どこかが痛むとき、怖い目に遭ったとき、淋しいとき、つまらないとき、子どもは親に抱かれて「安心」したいのである。親との接触を求めているのである。相互に見つめ合い、頬ずりをし合うことで、子どもは親から愛されていることを感じ取る。親はわが子が居ることの充実感で満たされ、かけがえのない存在を心底から愛しい(可愛い)と感じるだろう。
 子どもの安心感、親の充実感が相互に交流して、子どもは成長する。そのためには、子どもを両手でしっかりと「抱きしめる」ことが不可欠であり、それが子育ての「基本」である。 (2016.9.20)