梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

参議院予算委員会の《ベビーカー論議》

 テレビの「国会中継」(参院予算委員会)を観ていたら、以下のような「やりとり」があった。質問者御本人のホームページから、その内容を引用すると、〈予算委員会の質疑は何度立っても、緊張します。慣れません。NHK中継付であろうと、なかろうと独特の雰囲気があるのが予算委員会室です。今日は、太田国土交通大臣にも初めて質問させて頂きました。我が国の強みである防災技術の海外展開に当たり、官民連携の新しい体制を作ってもらいたいという質問に対し、一言「やる!」と力強く答弁頂きました。また、ベビーカー利用に配慮する全国統一マークの策定・普及などについても前向きな答弁を頂きました。今までバリアフリー法においてベビーカーが位置づけられていなかったということ自体が問題ですが、今回の質問を受けてしっかりと取り組むとのこと。子育てに優しい社会、子育て応援社会を是非とも進めてもらいたい!太田大臣、宜しくお願いします!〉(山本かなえ Official Web Site 公明党・参議院議員 http://yamamoto-kanae.com)ということである。その中で私が思うことは、はたして「ベビーカー利用に配慮する全国統一マークの策定・普及などが、子育てに優しい社会、子育て応援社会につながるのだろうか」という疑問である。そもそも「子育てに優しい社会」とは何ぞや。今や、乳幼児の外出にベビーカーは必需品、電車・バスなどの交通機関、デパート、レストラン、遊園地、行楽地等々は、色とりどりのベビーカーで溢れかえっている。しかし、日本の国土は狭く、しかも山国だとすれば、至る所に急坂・階段(バリアー)があって、その運転操作がおぼつかない。そこで、ベビーカーも「車椅子」同様の扱いをして、子育てに励む親の負担を軽減すべきである、という趣旨なのであろう。山本議員いわく「今までバリアフリー法においてベビーカーが位置づけられていなかったということ自体が問題ですが・・・」。なるほど、バリアフリー法の対象は「高齢者、障害者(身体障害者・知的障害者・精神障害者・発達障害者を含む、全ての障害者)、妊婦、けが人」であって、子育てペアレンツは外されている。しかし、そのこと自体が問題だと、私は思わない。むしろ、子育てペエアレンツにはベビーカーは「必需品」であるといった「風潮」自体の方が問題である。乳幼児にとって、ベビーカーは「必需品」ではない。なぜなら、外出に際して自分を「優しく」「抱っこ」「おんぶ」してくれる両親が居るからである。乳幼児にとって、何よりも必要なものは、両親(主として母親)との身体接触を通して感じる「ぬくもり」であることを忘れてはならない。ベビーカーは、「だっこ」や「おんぶ」の負担(重圧)から、両親を解放してくれるに違いない。しかしそれは同時に、子育ての責任(重圧)をも回避してしまうという危うさも孕んでいるのだ。いつかの夜、電車のホームで見た光景。ベビーカーに乳児をのせた若い父親が、数メートル離れた若い母親に向かって、ベビーカーを押して手を離す。それを母親が受け止め、また父親に押し返す。まるでキャッチボールのように・・・。楽しんでいるのは両親、乳児の表情は引きつっている。それが「子育てに優しい社会」の実態だといえば言い過ぎだろうか。山本議員が目指す「優しさ」とは、両親に対する「優しさ」に過ぎない。大切なのは「子育てに優しい社会」ではなく「子どもを優しく育てる社会」である。山本議員に子育ての経験があるかどうか、私は知らない。しかし、「ベビーカー利用に配慮する全国統一マークの策定・普及」が実現したとしても、喜ぶのは、ベビーカー製造・販売業者だけ、およそ「子育ての応援」とは見当外れな政策であることを肝銘すべきである。
 (蛇足だが)そういえば、山本議員は「大阪市在住」とやら、「維新の会」のお歴々は、件の「やりとり」を何と見た?ぜひとも御高見を伺いたいものである。
(2013.5.7)