梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「老いる」ということ・Ⅵ

 (いつ終わりになってもおかしくない)私の人生は終末期を迎えた。物置同然の仕事部屋には、小・中学校時代の教科書、高校時代の詩集、大学時代の文学書、卒業論文、そして現役時代の専門書、研究論文などが、埃にまみれて山積している。梅雨明け前までに廃棄処分しようと思ったが、仕事はかどらない。一冊一冊どれを取っても「思い出」がある。そこには昔の私が居る。本は私の友だちなのである。しかし、色褪せたページの細々とした活字を追うことは、もう私の視力では無理だ。わずかに懐かしい表紙のデザインがぼんやりと映るだけなのだが・・・、それでも棄てることはできない。いつまでも私のそばにいてもらいたい。かくてまた、愛しい書籍の数々は、ウェット・ティッシュで清拭され、もとの本棚に収まることとなった。
 「老いる」とは、そういうことなのである。
(2016.7.28)