梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症からのメッセージ」(熊谷高幸・講談社新書・1993年)再読・35

【個別教育プログラム】
《要約》
・それは、従来の一斉授業中心の指導形態を改め、一人一人の障害児の実態に合ったプログラムにもとづいて指導をおこなおうとするものである。
・社会的な発達に重大な障害を持つ自閉症児の教育の目的は、それに適応できるようにすることである。
・自閉症児に対する個別教育プログラムの必要を早くから唱え、実施してきたのは、米国ノースカロライナ州で始まったTEACCHプログラムである。このプログラムは、場の意味や学習の順序についてもさまざまな工夫をほどこしている。場の意味を伝えるためには、教室をカーペットの色を変えることによって四つに区分し、それぞれが「あいさつ」「ブロック遊び」「滑り台とマット」「絵本」のコーナーであることを、目に見える形にして伝えている。製品組み立ての机の上には、部品コーナー、組み立てコーナー、完成品コーナーと、作業の各段階が場所として示されている。
・自閉症者は行動プログラムを立てることが苦手な人たちである。行動の各ステップを目に見える形にして案内することが必要である。
・TEACCHプログラムは、行動プログラムの未発達を自閉症の主要な障害とみなす立場を特にとっているわけではない。しかし、長年、自閉症児たちと取り組んできたこのプログラムが編み出してきた方法は、実質的にはこの点を配慮したものとなっているのである。
《感想》
・ここで著者は「社会的な発達に重大な障害を持つ自閉症児の教育の目的は、それに適応できるようにすることである」と述べている。しかし、本当にそうだろうか。社会に適応できるようにすれば、自閉症児の持つ《社会的な発達の重大な障害》は軽減・除去されるのだろうか。自閉症児は、「結果として」社会的な発達が遅れているのであり、その要因を究明し取り除く取り組みをしないまま、「適応できるように」したところで、自閉症という「本質」に変化(治癒)はもたらされない、。自閉症児は、自閉症という問題を抱えたまま、社会に適応し、自閉症者に成長していくだけのことであろう。
・TEACCHプログラムは、自閉症児を社会に適応できるようにするためのプログラムであり、自閉症の「本質」を改善するためのプログラムではない、と私は思った。(2016.2.16)