梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症からのメッセージ」(熊谷高幸・講談社新書・1993年)再読・16

【身体に現れた症状】
《要約》
・自閉症者は行動のプログラムの立て方に問題があり、その結果、(略)長時間固定した姿勢を保ったり、歩行を続けたりすることができなくなる。その状態が10年、20年と積み重ねられているうちには、身体を動かしたり支えてりする骨や筋肉にも異常が生じてくるはずである。
・自閉症児は、乳幼児期を比較的おだやかに過ごす。3歳か4歳頃になって一転して多動となることが多い。突然、外に飛び出したり、高い所に登ったりするようになり、一般の児童とはかなり違って見える。ところが10歳を過ぎた頃から、動きが緩慢となり寡動といわれる状態となることが多い。
・自閉症児の行動の足跡を、足の裏の写真で見ることができる。(平沢弥一郎氏が開発したピドスコープという装置を用いる)
・自閉症児に一番よく見られるタイプは、全体に細長く、足指の部分の付きが悪い。また、外反足(扁平足)、内反足の例もある。骨が柔らかいうちから安定しない歩き方(または走り方)を繰り返したり、高いところから飛び降りたりという負荷をかけてきた結果が、このような足がつくられる可能性を強めたと考えられる。
・歩行とは、全身の協応的な動作を伴うものだから、大脳の統合的な活動を必要としている。また、歩行のスタイルは、子どもが人間の集団の中で長距離の移動を経験する中で徐々に形成されるものである。しかし自閉症者は、大脳の統合的な活動という点でも、集団への参加という点でも重大な障害を背負っている。だから、彼らの歩行の様子は、障害の程度やその克服のレベルを如実に物語っていると言えるのである。
《感想》
・ここでは、自閉症の足の裏写真を見ると、健常児とは「大きく異なっている」ことが述べられている。その原因は、自閉症児の行動が「多動」から「寡動」へと変遷していく中で、通常とは異なった歩行、姿勢を「長時間」重ねてきたため、ということである。そのこと自体は、体の「動き」が「形」を決めるという意味で、あたりまえのことだ、と私は思う。不自然な動きを継続すれば、「形」が異常になる例は、畑仕事に従事した老人の姿で証明されているのだから。したがって、自閉症児は「なぜ不自然な動きをするのか」という点が解明されなければならないのではないか。著者は、それは「行動のプログラムの立て方に問題がある」から、また「大脳の統合的な活動に障害を背負っている」からと考えているようだが、私は肯けない。「不自然な動き」は《誰でも》する。とりわけ「精神的な不安定」が生じている場合には、協応動作、姿勢、摂食、排泄等々、様々な活動が影響を受け、「金縛り」「拒食」「不眠」「下痢」「便秘」といった症状が現れることは珍しくないからである。
・しかし、自閉症児の足形を撮り、それを実態把握(症状の程度)の資料にすることは、有効かもしれない、と私は思った。(2015.12.7)