梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症」への《挑戦》・9

 ③ スキンシップでかかわる
 「スキンシップ(和製英語: skin-ship)は、母親と子供を始めとする家族関係にある者や、ごく親しい友人同士が抱きしめ合ったり手を握り合う、あるいは頬ずりするなど身体や肌の一部を触れ合わせることにより互いの親密感や帰属感を高め、一体感を共有しあう行為である」(ウィキペディア百科事典)
 したがって、「自閉症」と呼ばれる人たちと「接し」、最近距離で「かかわる」ことができるかどうか、「ごく親しい友人同士」という関係を作れるかどうか、こちらにとっては最大・難関の課題である。
 通常、人間は相手との距離を3メートル以上おかないと緊張する。「ごく親しい友人同士」であれば1メートル以内でも許される。さらに近づいて親密な関係になれば45~15センチ以内での「かかわり」も可能になる。つまり、その距離が縮まれば縮まるほど、他人同士であれば緊張が高まり、友人同士であれば親密感が増すということになる。相手が乳幼児の場合であれば、だっこ、おんぶ、かたぐるま、高い高い、お馬さんごっこ、手つなぎ、おしくらまんじゅう、など様々な活動が考えられるが、学齢期以降、まして青年、成人が相手となると、方法は限られてくる。
 最も自然な活動は、学齢期であれば、すもう、レスリング、海水浴、青年・成人期であればダンス(フォークダンス、ディスコダンス、社交ダンスなど)やスポーツ(プール遊び、ラグビー、格闘技など)、さらには遊園施設のアトラクションなどであろう。温泉施設に一緒に入るのもよい。マッサージやタオルでのブラッシング(乾布摩擦)なども有効ではないだろうか。 
 そうした活動を重ねることによって、いつでも、お互いが抵抗なく3メートル以内に入り合える関係を築くことが必要である。また、出会いや別れるときの「ハイタッチ」「握手」「抱擁」などが、自然にできるようになれば成功である。  
 「スキンシップ」は、相手の皮膚感覚(場合によっては嗅覚)を刺激するので、相手に「感覚過敏」があると思われるときは、細心の注意が必要である。しかし、親密感、帰属感、一体感を高めるためには、きわめて重要な「かかわり方」であると、私は思う。 
 『我、自閉症に生まれて』(学習研究社・1994年)の著者。テンプル・グランデン博士(動物科学分野)は、6歳時に自閉症と診断されたが、〈自分自身の神経的発作や触覚刺激に対する過剰反応を抑制するために、牛樋からヒントを得て、17歳で「締めつけ機」を試作し始める。現在、改良された「締めつけ機」はさまざまな施設で利用されている〉(同書・裏表紙)と紹介されている。博士は、自分で自分の体を締めつける機械を作り、情緒の安定を図った。幼児期、触覚過敏のため「触られ」ることには激しく抵抗したが、一方で「抱きしめられる」という圧覚は、快感として求めていたことがよくわかる事例である。その安定感が、他人に対する親密感、帰属感、一体感を生み出し、以後の、めざましい社会的活躍(→28歳時、アリゾナ州立大学修士、→42歳時、イリノイ大学博士、→コロラド州立大学助教授、→「グランディン・畜産動物扱いシステム会社」社長)を可能にしたのだと、私は思う。 
(2016.4.29)