梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症児」の育て方(15) いくつかの留意点(3)

⑶ (5歳頃までの)「自閉症児」(と呼ばれている子ども)の実態を「遠城寺式・乳幼児分析的発達検査表」(九州大学小児科改訂版)」(遠城寺宗徳・慶應義塾大学出版会・1977年)で評価すると、子どもによって千差万別の違いがあるが、《「運動」に比べて「社会性」「言語」に遅れがある》という特徴は共通しているようである。細かく見ると、「移動運動」「手の運動」に比べて「基本的習慣」「対人関係」「発語」「言語理解」の項目に「できないこと」が多い。「移動運動」「手の運動」が、「事物から《直接》学ぶ」ことができるのに対して、「基本的習慣」「対人関係」「発語」「言語理解は「親(人)を《媒体》として」学ばなければ「有用」にならない。しかし、「自閉症児」(と呼ばれるこども)は「人に対する関心・かかわりが乏しい」ので、後者の能力が遅れがちになる。中でも、「対人関係」は《一様に》遅れていると思われるが、その遅れに注目し、《取り戻す》ことが最重要課題である。その項目を列挙すると以下の通りである。
①泣いているとき抱きあげるとしずまる(1か月頃)、②人の顔をじいっと見つめる(2か月頃)、③人の声がする方に向く(3か月頃)、④あやされると声を出して笑う(4か月頃)、⑤人を見ると笑いかける(5か月頃)、⑥鏡に映った自分の顔に反応する(6か月頃)、⑦親しみと怒った顔がわかる(7か月頃)、⑧鏡を見て笑いかけたり話しかけたりする(8か月頃)、⑨おもちゃをとられると不快を示す(9か月頃)、⑩身ぶりをまねする(イナイイナイバーなど)(10か月頃)、⑪人見知りをする(11か月頃)、⑫父や母の後追いをする(1歳頃)、⑬ほめられると同じ動作をくり返す(1歳2か月頃)、⑭簡単な手伝いをする(1歳4か月頃)、⑮困難なことに出会うと助けを求める(1歳6か月頃)、⑯友達と手をつなぐ(1歳9か月頃)、⑰親から離れて遊ぶ(2歳頃)、⑱電話ごっこをする(2歳3か月頃)、⑲友達とけんかをすると言いつけにくる(2歳6か月頃)、⑳年下の子どもの世話をやきたがる(2歳9か月頃)、㉑ままごとで役を演じることができる(3歳頃)、㉒「こうしていい?」と許可を求める(3歳4か月頃)、㉓友達と順番に物を使う(ブランコなど)(3歳8か月頃)、㉔母親にことわって友達の家に遊びに行く(4歳頃)、㉕ジャンケンで勝負を決める(4歳4か月)、㉖砂場で二人以上で協力して一つの山を作る(4歳8か月)
 以上の「対人関係」の一つ一つが着実に(いつでも、どこでも)「できる」ようになれば、そのことだけで、他の領域の遅れも《取り戻せる》かもしれない。また、2歳頃までの項目を「すべて」できるようになれば、以後の項目は「トントン拍子」にクリアできるだろう。したがって、「自閉症児」(と呼ばれる子ども)の育児は、まず何を措いても、この「対人関係」に注目し、いつでも、どこでも、完全に「できる」ようになるまで、繰り返し「続ける」ことが肝要である。(2015.1.20)