梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症児」の育て方(8) 「表情」のやりとり

8 「自閉症児」の育て方・6・《「表情」のやりとり》
 「笑顔」は表情の一つだが、それ以外にも「泣き顔」「怖い顔」「驚いた顔」「変な顔」「寂しそうな顔」「悲しそうな顔」「浮かない顔」等々、人間の表情は「千変万化」する。また「表情一つ変えない」というように、《無表情》という表情もある。人間(という動物)は、それらの表情を様々に使い分けながら、相手とのコミュニケーション(心の交流)を図る。また、その人の心情は「表情」として顕在化するので、「表情」の動きを見れば、その人が今「何を感じているか」「どう思っているか」など、その心情のおおよそを推測できる。 
 新生児の「表情」は、「快・不快」に二分され、単純・明解だが、乳児、幼児へと成長する中で複雑に分化し、「表情」を見ただけでは「察しがつかない」ということも生じてくる。特に、学童期後半からはその傾向が顕著になり、思春期、青年期、成人期になると自分の心情を(やたらと)「表情」に顕さないことが一般化する。(その程度は、個人差があり、また、所属する集団、風習、文化、民族の違いによっても異なる)
 そこで、相手の「表情」から「心情」を推察することが、子どもの「社会参加」「社会自立」にとって不可欠となるが、親は、様々な「遊び」を通して、そのことを推進する。「にらめっこ」「上がり目下がり目」「いいお顔」「いないいないばあ」などの遊びは、「表情のやりとり」を活発にし、相互の「心の交流」を豊かにする。
 「自閉症児」(と呼ばれている子ども)の場合、この「表情のやりとり」が活発にならない傾向がある(かもしれない)。それは、「視線が定まらない」「じいっと見入ることがない」「相手と視線を合わせることがない」といった特徴が影響しているからかもしれない。それらは、いずれも「見ること」(視覚)に関する特徴だが、同時に「音をした方を見る」という「聞くこと」(聴覚)と《連動》していることを見落としてはならない、と私は思う。定説では「自閉症児は、耳が聞こえていないように振る舞う」という行動特徴が示されているが、「聴覚→視覚→運動(表情)」の連合(協応)過程に支障が生じているかもしれない。(しかし、その確証はない)
 いずれにせよ、「自閉症児」(と呼ばれる子ども)であっても、「表情のやりとり」を活発にすることが重要である。そのためには、まず①名前を呼ばれたら振り返ること、②相手の顔を見て、視線を合わせること、次に、③こちらが様々な「表情」をして見せること、④その「表情」にどのように反応するか、観察すること、④「笑顔」だけでなく、「怖い顔」から「普通の顔」、「普通の顔」から「変な顔」などというように、こちらの「表情」を「百面相」のように変化させながら、子ども自身の「表情」がどのように変化するか、観察すること、⑤「にらめっこ」「上がり目下がり目」「いいお顔」「いないいないばあ」などの遊びを、頻回、繰り返し、親子で「楽しい」気分を味わうこと、などを通して、子ども自身の「表情」のレパートリーを増やす(表情を豊かにする)ことが肝要である。(2015.1.11)