梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症 治癒への道」解読・《35》付録1 母子抱きしめ療法による自閉症からの回復(マーサ・G・ウェルチ)・2

◎要約
《付録1 母子抱きしめ療法による自閉症からの回復》(マーサ・G・ウェルチ)
【治療の方法】
《母と子の絆をつくることがすべての基本》
・治療の課題は、自閉症の子どもとその母親との間に強い絆を確立することにある。
・治療をうまく成功させるには、治療者が母と子の間に立ち入らないことである。しかし、父親や祖母その他の家族を治療に引き入れなければならない。
・母と子どもを再び結びつけるいかなる行為も、子どもの自閉症からの回復を助ける。自閉症は、接触をもつこと、接触を受け入れることからのひきこもりであり、拒否であるから、母と子を結びつけることは非常に困難である。治療者は母子双方の葛藤を解決しなければならない。治療者は子どもの抵抗や無反応および母親自身のためらいや抑制の両方を克服しなければならない。母親が子どもからの拒否に直面しながらやりぬくためには多大の支援が必要である。父親や祖母などが、必要な支援を与えるうえの鍵になる。治療者は母親のもつ夫や自分の母親との間の葛藤の解消を助けなければならない。
・母親が子どもの自閉の壁を突破するための最上の方法は身体接触である。自閉症児は強い身体接触には抵抗する。母親は子どもが接触を受け入れるまでやりぬかなければいけない。
・母親自身が、子どもとうまくつながりがもてたと感じ始めたら、子どもの行動に制限を設けることや、子どもに何かを要求することについて母親に指示を与えてもよい。これは、自閉症児の親がとくに苦手とする領域である。とくに母親は、制限を設けることなどできないしその権利もないという気持ちでいる。子どもと積極的なやりとりができるようになるとはじめて、自分からも子どもに対してある程度の要求ができるという気がしてくる。
《いつから、どのように始めるか》
・抱きしめ療法は、初回、家族の紹介がすんだらただちに開始するのが最もよい。
・抱きしめ療法は、自閉症の子どもとのつながりをつけるための基本的方法を、母親に教えることになる。その結果つながりができてくると、自分の子どもを取りもどすことができるという希望が湧いてくる。抱きしめをしてみて初めて、母親は自閉的なひきこもりをもたらしたものが何であったかをはっきりつかめるようになることがしばしばある。
《望ましい効果が出るまでやりぬくこと》
・抱きしめ療法を行うのに最もよい場所はやわらかいソファである。子どもはからだで激しく抵抗するのが普通である。やわらかいソファかマットならふたりの身体的外傷を防ぐことができる。
・母親に子どもを膝の上に向かい合わせに抱いてもらう。父親には横に座ってもらい腕で母親を抱いてもらう。子どもは膝を曲げ、母親の膝にまたがって座る。母親は子どもの腕を自分のからだに巻きつかせ、それをわきの下にしっかりと押さえ込む。そうなったら、目と目を合わせるために子どもの頭を手で支えるようにしてもよい。この姿勢は母子ともに必ずしも心地よいものではない。
・通常母親はすぐに子どもにいやがられ拒まれてしまう。(治療者は母親に対して、子どもが近寄りたいという気持ちとひきこもりたいという気持ちの両方の混じった感情をどのように表しているかを知らせる必要がある)
・母親は最初は抱き方がうまくない。開いた掌でしっかりと相手をとらえることができない。抱き方がいつもぎこちなく、弱い。治療者は母親にきっちり、しっかり抱くように言う必要がある。
・最初母親は子どもを抱きたがらない。このような形で自分の子どもを追いつめることを快く思っていない。そこで実際に抱くことによって、抱きたい気持ちになることができるものであることをなんとか母親に理解させなければならない。母親はしっかり決心がつくところまで行かないうちに放り出してしまいがちである。望ましい相互作用が出てくるまでやりぬくように勧めなければならない。
《父親や祖母の参加も重要》
・回を重ねていくうちいつしか、母親の、子どもや自分自身に対する感情、態度が変わってくる。(子どもに対する感情が芽生えてくる。子どもへの愛情を実感することができる。自尊心が高まる。失敗感が勝利感に代わる。)
・身体的接触を維持していると、葛藤があっても関係の崩壊を起こさない。
・理想的にはこの治療過程に父親が参加すべきである。
・父親がいない場合には、母方の祖母はとくに重要になる。
《抱きしめ療法の要点》
・母親に子どもをからだで抱いてもらう。
・自閉症児は抱かれることに抵抗する。
。母親に決して諦めさせてはいけない。母親は子どもをぴったりと抱き、視線を合わせるよう努めなければならない。結局は闘いになる。叫び声を発したり、噛みついたり、つばを吐いたり、叩いたりするが、からだをゆるめ、母親のからだにあわせてくっつき、しがみつき、目を合わせ、母親の顔をそっとなでたり、ついには話し出したりするまで、母親は抱き続けなければならない。
・母親はこの抱きしめを家でもやらなくてはいけない。少なくとも1日に1回と、子どもが調子がわるいとという様子がみられた時はいつでも行う。1回の抱きしめは少なくとも1時間は続ける。
・父親が子どもを直接抱きしめるのは、母親の抱きしめの代わりではなくその補足でなくてはならない。
《治療者の役割》
1 母親が子どもを抱きしめることを励まし、激励し、強要すること。
2 母と子が、出していながら互いに理解できないでいる信号を観察し、通訳すること。
3 母と子、母と他の家族との葛藤を分析し、解説すること。
4 母と子が経験する怒りや抑うつにたじろぐことなく耐え抜くこと。とるべき役割の模範を示すこと。
5 父親の協力をとりつけること。父親も子どもの抱き方を学ばなければならない。
6 母親の問題を解決に導くこと。
* 治療者は抱きしめをしてはならない。治療者は両親に、とくに怒りを感じた時に、互いに身体的に抱き合うことを教えなければならない。怒った時に抱き合うことを学ぶと、新しい親和関係が獲得される。この親和関係は母親の献身能力を増大し、それが子どもにも伝わる。
 このように母子抱きしめ療法は、家族複合体全体を巻き込んだ強力な治療法である。これは実にしんどい作業であるが、確実な効果があるゆえにやる価値がある。
【事例資料】
《事例1 H・Mの場合》(初診3歳6か月)
・ことばがない。人とのつながりがもてない。多動。発達遅滞。奇妙な様子をする。水洗トイレの水を流す・積み木を正確に一列に並べることに執着する。
・執着している行動をさえぎられるとかんしゃくを起こした。
・母親は冷たく、よそよそしい、知的な人であった。
・母親は8か月の頃以来、着替え・食事以外抱いたことがなかった、という。
・抱きしめを6週間毎日行ったところ、はじめてことばを発した。すさまじい抱きしめ闘争のあと「抱いてありがとう」と言った。(一足飛びに完全な文章で話す段階まで進んだ)
・その後もことばが急速に伸びた。同時に目が合うようになってきた。
・6か月後には他の子どもたちと遊ぶようになっていた。
・4歳半までには読みのレディネスを示すようになった。(文字をおぼえた)
・現在8歳で3学年に在籍し、中以上の成績を示している。行動上の問題はまったくない。
・母親も、温かい、愛情深い、おだやかながらしっかりした人になっている。
《事例2 P・Kの場合》(初診7歳)
・人との関係がもてない。多動・破壊的。発達が遅れているが潜在的に高い能力をもつ兆候。奇妙な様子(手をひらひらさせる)。ことばはつぶやきのみで伝達の用をなさない。物を並べることに執着する。
・1歳1か月(弟の誕生時)までは正常に発達し、ことばも話しはじめていたが、4歳まではまったく音声を出さず、英語でわけのわからないことを話していた。
・両親はスペイン語しか話さなかった。母は子どもに対して冷たく、よく罰を与えた。
・1年間、抱きしめ療法を行った結果、多動ではなくなってきた。英語もスペイン語も話せるようになった。読みの能力は年齢水準より数年上であった。変化にも適応できるようになり、自分の感情をことばに変えて気をおさめることができた。1年後の治療終了時「じゃあ、どうしても行っちゃうの?」と言い「そう」と言われると「じゃ、もう口をきかないから」と言った。ひきこもってしまおうという衝動をもったのである。
・しかし、愛情豊かなしっかりした人になっていた母親が抱きしめを続け、子どもは発達し続けていった。
《事例3 H・Iの場合》(初診4歳6か月)
・人とのつながりがもてない。ことばを言わない。奇妙な様子をする。物をクルクル回すことにこだわる。
・養子であり、養母に対して最初から反応を示さず、ひとりで放っておかれた。
・2歳6か月から2年間、母子一緒の治療を受けていた。
・4歳6か月から、抱きしめ療法を開始した。母親から顔を背けて親指をしゃぶったままなら抱かれていて平気だった。母親がしいて自分の顔の方に向けさせようとすると目をつむった。母親がそれを続けると感情の高ぶりをぶつけてきた。抱きしめ療法を続けた結果、手や目を使って母親の顔をまさぐろうとするようになった。からだをあわせるようになり、しがみつくようになってきた。
・母親は毎日抱きしめを行うほか、かんしゃくや調子が悪いことを示す兆候がみられ時は、いつでも抱いた。(抱きしめによって接触が確立され、子どもはひきこもりによってではなく母親からなぐさめを得ることができるようになった)
・現在9歳で、抱きしめ療法終了後3年たつが、4学年に在籍し、学年水準以上に達している。正常に遊べるし変化にも適応している。自分の感情をことばで調整している。
・今も毎日母親に抱きしめを要求し、母親も快くそれに応じている。
《事例4 H・Kの場合》(初診1歳10か月)
・発達は遅れ、人との関係をもたず、ことばを話さず、動きが乏しかった。
・1歳10か月まで1年間フェノバルビタール(坑てんかん薬)を投与されており、これが自閉的ひきこもりに拍車をかけていた。
・生まれた時から重い眼筋異常があり、それが母親と視線をあわせることを妨げていた。
・母親は出産前後、非常に抑うつ的で、子どもから好かれていないと感じていた。
・子どもは、抱きしめに対してすぐに手応えを示した。目をつむり、1時間以上にわたって泣き、叫び、もがいた。それから静まり、抱かれたままでいた。しばらくして、祖父に向かって「おじいちゃん」と呼んだり、他に人の名前を呼んだり、初めて人形と遊ぶようになった。
・今では、正常な幼児のように喃語、単語、文章などの発語、発声がある。脚は、廃用性萎縮からくる発育不全を示していたが、現在はよく歩き、周囲を探索することが好きである。好奇心は一週ごとに拡がってきている。音楽が好きで今はピアノを習っている。
・抱きしめ療法を3年続けたがまだ正常ではない。(現在4歳10か月)
・話したがらないほうで、最近母親に「ペラペラペラペラ。私おしゃべりのしすぎね」と言った。
・治療は進行中で変化も続いている。自分の葛藤をあらわすことばを使い始めている。先週母親に、自分は母親がきらいだと言った。両親に対する愛情をことばに出すことも多いが、これは自分の消極的感情を表すのにことばを使った最初の出来事である。
・抱きしめ療法による「格闘」は、今も続いている。
《事例5 L・Gの場合》(初診10歳)
・人との関係をもたず、動き方や姿勢が奇妙。からだをゆすり、爪先立ちで歩き、手をひらひらさせ、よだれを出していた。
・生後2か月までは正常な反応を示していたが、おとなしく要求が少なかった。
・以後、反応を示さなくなった。
・1歳6か月頃まで、母親は新しい家の建物の管理に追われ、子どもを車の中に放りっぱなしにしておくことが多かった。
・6歳の時から自閉症児のための収容施設に入れられた。
・10歳の時、第1回の抱きしめ療法のあと、ことばをしゃべった。
・母親は、子どもがことばを話してさえくれれば、もう施設には送り返さないと言った。しかし、生まれて初めて数語を話した時、「これではまだダメ。施設に送り返します」と言い張った。子どもは治療の間に視線が合うようになってきたが、母親のことばを聞いてから、再び視線を避け、扉をパタンとやるようになった。そしてすぐに著しいひきこもりを示すようになった。
・何回かの抱きしめ療法をしているうちに、子どもは破壊的な行動をやめた。
・子どもの行動が落ち着いてきたので(目が離せない状態ではなくなったので)家族は子どもをひき続き家におくことにした。
・母親が子どもを抱いて無理に自分の顔を見させようとした時、子どもが初めて泣き出し、正常な子どもと同じような感情を示した。(その瞬間、母親は深く心を動かされたようであった)
・しかし、母親は毎朝遅くまで寝ており、8歳の妹がL・Gが自閉症児の養護学校に行くのを手伝っていた。
・母親は毎日働いており、7時頃仕事からもどった。寝る前に30~45分抱いた。治療に訪れる時は、いつも1時間以上遅れて来た。父親も同行することがあったが、まったくあてにはならなかった。治療は夏には中断した。両親は自分たちが二人で遠出ができるように、三人の子どもたちを8週間のキャンプに入れることを選んだ。それきり治療にはもどってこなかった。
《事例6 C・Cの場合》(初診6か月)
・生後2週間目から、気むずかしく、世話を受けつけず、人ぎらいであった。反りかえって顔をそむける、泣いたり身もだえして身体接触に抵抗し、逃れようとした。
・母親と他の人を見分けている様子はみられなかった。微笑反応は、相手が数フィート離れている時のみ出現した。抱いてもらう時の良き反応はみられなかった。おもちゃに対しても反応を示さなかった。声も喃語も発しなかった。固形食・乳児食も拒んだ。母乳を与えると吸いながら、一方の腕で母親を押していた。おしゃぶりを吸わせて視線をそらしていられる場合のみ、抱かれるのを拒まなかった。それ以上の接触をしようとすると、金切り声をたてたり、あばれたりして手がつけられなかった。
・C・Cは第四子であったが、出産前から母親には、男の子が欲しい、子どもに縛られたくない、子どもに異常がないか、などの心配があった。案の定、C・Cは墜落分娩(医師が居合わせなかった)で母親は狼狽、内反足、へその部分がふくれるなどの欠陥で「異常」を感じ、「上の子どもたちと比べて劣る」と確信してしまった。以後、母親のC・Cに対する愛着は妨げられ「この子に対して何の感情ももっていなかった」という。しかし、その感情がC・C本人に伝わってしまうことには気づいていなかった。
・抱きしめ療法開始二週間後、母親はC・Cを「かばう」気持ちをもち始めた。抱きしめは毎日やった。子どもは泣き、もがき、視線をそらそうとしたが結局は静かになった。母親に向かって笑いかけ、初めて母親のからだに身を寄せ、しがみつき始めた。そして正常な発達をし始めた。
・3か月後、母親は子どもをかわいいと思い始めた。
・現在1歳1か月に入り、子どもは正常な、対人的にもよく反応する、愛らしい赤ちゃんになっている。見知らぬ人に対しては適度の人見知りを示し、他の子どもに対しては強い興味を示している。
・C・Cに対する母親の態度やふるまい方は、普通の母親と変わらない。
【考察】
《母子の愛着は、崩れるが修復もできる》
・正常発達は母と子の間の強い人間的絆のもとで進行するものである。自閉症においてはこの対人的絆が欠如しているか、あっても非常に弱い。自閉症児とその母親の間に強い対人的な絆が確立・回復されれば正常発達がもたらされることになる。事実、そのとおりである。
・自閉症は母子間のつまずきの最終の結果である。愛着もしくは結びつきの過程は妊娠期間に始まり、一生を通して深められていく。出生は決定的な時期であり、早産その他、新生児期の異常があった場合には重大な瓦解が起こりやすい。それから先も、愛着関係は(どの時期においても)瓦解しうる。早期に起こった場合ほど、愛着形成はうまくいかない。
・進行中の愛着関係を妨げる状況・事柄は、自閉症につながることがある。(例・長期にわたる母子分離)
・しかしながら、愛着はいかなる時期にも瓦解しうると同様、いかなる時期にも修復しうる。
《母も子もともに犠牲者である》
・自閉症は母子双方の問題である。母親も子どもと同じく犠牲者である。何らかの「状況」や「生活事象」が進行中の「結びつき過程」を妨げる。その相互作用の結果、子どもは絶望、怖れ、フラストレーション、怒りの「果て」に「ひきこもっていく」。母親は、沈み込み、希望を失い、子どもの「ひきこもり」(自閉的状態)をそのまま「受け入れて」しまう。
・生活上の出来事が母子の関係を破局的に瓦解させた場合にかぎって、自閉症につながっていく。母親の心を著しくかき乱すような出来事や事態は、すべて子どもに「ひきこもり」を生じさせうる。関係瓦解の瞬間には、母親も子どもも同様に深い影響を受ける。それに対する子どもの反応は初めに「抗議」という形で始まったとしても、終局的には「ひきこもり」という形になっていく。母親の反応は、子どもを「ひきこもり」から奪回する結果になりにくい。相互和解が成立しないのである。子どもは自閉的ひきこもりの強化という方向で、母親は母親なりの何らかの方法で、この変化と荒廃した関係に適応していく。その頃は、子どもはもう手の届かない所まで行ってしまっている。
・母子が診断に訪れる頃までには、ふたりとも「一種の適応的状態」に落ち着いてしまっている。母親は理性的で事態に対処する能力をもっているようにみえるが、これとは対照的に子どものほうは明らかに異常を示している。母子の相互作用をよく見ていると、母親はおのずと子どもから「距離をおいている」ことがわかる。
《父親は母親を支えることが重要》
・一般に、母親は父親以上に、自閉症の子どもから「距離をおいている」。治療開始前には、父親の方が驚くほど多く子どもとつながりをもっており、つながりをもとうと心がけている。父親の方が子どもの扱いやつながりをもつ能力が高いのを見て、母親がさらに身をひいてしまうような家族もある。そのような場合、母親は父親に対し怒りを感じ拒否的になっている。どの事例でも両親の間には、感情の行き違いがある。治療では父親の注意を母親に向き直らせなければならない。父親が母親を支え、大事にするようになると、母親も子どもに専念するエネルギーを得ることができる。
・自閉症から正常発達への回復が早い例では、両親の間の問題は速やかに解決している。
・母親と母方の祖母との間には、深刻な問題がある場合がある。(そのような場合)ふたりの間には身体接触がないか、きわめて少ない。表面的にはよい関係のように見えるが、よく調べてみると、基本的な断絶がある。  ・きょうだいがいる場合、きょうだいの方が「親より」その子にいろいろ要求し、そうやらせていることが多い。自閉症児の親は、子どもへの期待を高めていくことが難しい。
《「抱きしめ」は子どもに自閉からの脱出路を与える》
・母親は自閉の壁を実力で破ることにおいて案内人の役をはたす。そうすることによって、自分自身の子どもを愛する能力が拡大される。この努力で確かな結果が得られると、らせん状に向上し、自閉症からの回復という結果が生まれる。その(献身の)結果、母親は子どもの行動に制限を与えたり、要求したり、秩序を設けたりしてかまわない、という気持ちになる。
・治療で最も重要なことは、母親と父親に治療への参加を動機づけることである。抱きしめを受けた子どもはすべて積極的な反応を示した。子どもはその気になっている場合でも、必ずしもすべての母親がすすんでやろうとするとはかぎらなかった。
【結論】
・(事例資料により)安定した母と子の絆を確立することによって、自閉症児を正常発達に立ちもどらせることが可能である。
・(事例資料は)小児自閉症の原因が、母子間の正常な絆の確立・維持の失敗にあることを物語っている。
・最も成功の可能性の高い治療法は、母子を一組として治療し、治療者が母子の間に立ち入ることなく、母親が自閉の壁を打破するのを助けるやり方である。
・本論文で記述した治療の過程は容易な方法ではない。たいへん骨の折れる苦痛な作業である。しかし、この技法の結果は「あまりにも印象的である」。


《感想》
 以上が、論文の「後半」である。ここでは、ウェルチ博士が提唱する「抱きしめ療法」の具体的な実施方法と、それを行った六つの「事例資料」が紹介されている。「抱きしめ療法」の特徴は、子どもの「気持ち」を無視して「強要」する点にある。それゆえ、子どもの「気持ち」を無視したくない(優先したい)と思う人たちにとっては「受け入れ難い」方法に違いない。しかし、その時の子どもの「気持ち」とはどのようなものであろうか。「こわい」「逃げたい」「近づきたくない」(臭い、痛い、くすぐったい、気持ち悪い)「かかわらないでほしい」「自分の好きなようにしていたい」「放っておいてもらいたい」等々、要するに「ひきこもりたい」という思いでいっぱいになっているかもしれない。だが、それだけか。どこかに「近づきたい」「抱かれたい」「愛撫されたい」「身体接触の快感を味わいたい」「お母さんに愛されたい」という気持ちが隠されているのではないか。つまり「接近と回避の葛藤状態」にあるのではないか。もしそうだとすれば、子どもの「気持ち」を無視したくない人たちは、子どもの深層に隠されている「接近したい」という気持ちを「無視」していることにはならないか。
 いずれにせよ、「自閉症」という問題は、「ひきこもりたい」という子どもの気持ちが、固定化し、常態化していることであり、その状態からの脱出を図るか否か、どうやって図るか、ということが今、私たちに問われているのだと思う。
 紹介されている六つの事例資料のうち、4事例は「改善」、1事例は「治療中」、1事例は「治療中断」という内容であったが、いずれにおいても母親の果たす役割が大きい。治療は、子どもに対してというよりも、母親(の気持ち)をどのように変えるかということに重点がおかれていることがわかった。そして、「母親が変われば子どもが変わる」という定理が見事に実証されている。(「治療中断」のケースは、残念ながらその「逆」であった)
 ウェルチ博士が結論で曰く「本論文で記述した治療の過程は容易な方法ではない。たいへん骨の折れる苦痛な作業である」。まさに「自閉症治癒への道」は、母親にとっても治療者にとっても「苦難の道」であることを思い知らされた次第である。(2013.12.26)