梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症 治癒への道」解読・《11》第5章 何が子どもを自閉症にするのか(2)【自閉症を発生させる要因のリスト】

◎要約
【自閉症を発生させる要因のリスト】
*このリストは(一部)は、確固たる証拠に基づいたものというよりもむしろ暫定的なものであり、直観に基づいたものである。
《出生前の影響》
・妊娠中の母親の風疹(風疹が原因で聾になり、聾が原因で自閉症になるということがあるかもしれない。器質的なものと心因的なものがからみあっている)
・母親の栄養・喫煙・クスリ(食物のビタミン欠乏、喫煙、服薬が影響するかもしれない)・赤ちゃんに心理的影響を及ぼす要因(「生まれた時からおかしい」赤ちゃんは、その時すでに非ー遺伝的環境条件の犠牲者だったのかもしれない。胎児にとって子宮は環境なのだから)
《出産中の出来事》
・赤ちゃんにとって出産は革命的変化である。(①正常な出産でさえこの革命を無傷で生き抜くことは奇跡である。(哺乳類の動物も同様)②(現代社会の)出産の仕方の不自然さに気づかなければならない。自閉症児の出産にまつわる事柄の詳細についてはよく調べてみる価値がある)
・高位鉗子分娩は赤ちゃんをひどく驚かせる、難産の場合、子どもをひどく恐がらせる、ことがあるのではないか。陣痛促進も「不自然」である。
《出産後の出来事》
・出産後数分間の母子のやりとりがきわめて重大:誕生の瞬間から、母と子は互いに相手とやりとりを始める。(始めなければならない)母親は出産直後に赤ちゃんを渡されると熱心になでたりキスしたり軽くたたいたりする。赤ちゃんの方は誕生後1時間くらいは驚くほどはっきり覚醒した敏活な状態で、いっしょうけんめいに吸う動作を始めようとし、さらに母親の世話を助けるようなさまざまな活発な動きをみごとにやってのける。こういった最初の数時間の相互反応は、母親と子どもに永続的な影響力をもつ。双方ともこのような相互反応を通して、相手から学び、相手に教えている。(相互的プログラミングの始まり、対人的な過程の始まり)*出産時の麻酔、帝王切開、保育器などは、それを妨げ、子どもを自閉症にする素因をつくるおそれがある。
・早期の相互反応ができないようにされると(すぐに赤ちゃんが連れて行かれる等)、母子の相互的プログラミング(「縁結び」「絆の形成」)がずっと難しくなる。
・最初の数分間、数時間たつうちに確実にいくつものことが「まずいことになる」おそれがあり、それが新生児の「おとなしい」こと、その他の異常行動を起こしうるし、母親を困惑させ関係づけをそこなわせることがある。母子関係は危険にさらされており、自閉症の素因が生じているか、すでに自閉症になりつつあるということになるかもしれない。
*母親が「もうろう」としている場合、最初の愛着関係は形成しにくくなるが、そのことで母親を「責める」ことはできない。自分の力の及ばぬ条件の犠牲者である。自閉症の発生に「寄与した」ことと「責められるべきだ」ということは本質的に違う。
・母子ともにひきこもって身を守る悪循環:関係形成の一時的なつまずきなどは、以後修復できるから重要ではない、という考えもある。(その通りであることも多い)しかし、赤ちゃんの協力が得られないことに母親がすぐにがっかりしてしまったり、他の状況も影響して、互いに失望をくり返し、どちらかあるいは両方が、相手からひきこもって、それ以上の失望から身を守ろうとするようになる。(下向きの自己強化の悪循環)
・母親あるいは赤ちゃんの病気による入院:母親あるいは子どもの病気による「入院」(環境的断絶)は、双方を傷つけ、円滑な母子関係の発達がそこなわれるおそれがある。(このことは、現在では広く認識されている)
・弟や妹の早すぎる誕生:年上の子ども(特に第一子)にとって、母親の注目を失ったことを怒り、見捨てられたとか、裏切られたとさえ感じることがある。新しい赤ちゃんの誕生の影響は、全体的な状況に大いに左右されるだろう。
・親にストレスが多い状況での引っ越し:生後30か月以前の「引っ越し」は、かなりの外傷体験になりうる。
・頻繁すぎる旅、長距離のドライブのためのドライブ:あまりに頻繁な訪問、なじみのない環境への訪問(外国旅行)などは、「引っ越し」同様の危険があり、情緒的な混乱をおこしやすい。
・高層建築などの建物の中に切り離された住居:隔離状態の中で暮らしている母親は、孤独で退屈で気が沈んでいるかもしれない。その悩みの解決に、子どもを他人に預けて仕事の就こうとすることもある。自分の倦怠感や目的意識の欠如、うつ状態を子どもに移し伝えるかもしれない。逆に、子どもにかかわり過ぎ、注意を子どもに集中し、子どもを母親の選択した活動にばかり誘い、そのほうが彼女に都合のよい時には、子どもが自分のやりたいことをやれる時間をほとんどなくしてしまうこともある。また、高層住宅のような隔離された条件下に住んでいる子どもたちは、近隣の異年齢遊び集団に加わる機会があまりにも少なすぎる。都市では遊び場も危険が多い。このような社会の変化は「ひそかに忍び寄って」きたので、誰も気づいていない。
*親に「責任」はないが親の影響はある。「親の行動」も多くの形で、明らかに自閉症の発生に関与する。(この考えは、すでに否定されており、自閉症研究者の一部からは非常に激しい口調で拒否されているが、この拒否は科学的に正当性がなく無責任であり、合理的とはいえない)
*子どもを育てた経験のない母親の問題:〈ただ食べさせたり体をきれいにしてやったりするだけでなく赤ちゃんにもっと何かしてやらなくては、と言われないとわからない母親がいる。そのような母親は、たとえば赤ちゃんにひとことも物を言わない、歌ってやらない、赤ちゃんと一緒に遊んだりふざけたりしないのである!そういう情けない母親の一人は、赤ちゃんがそういうことが好きだと言われるとたいへん驚いて、「でもこの子に私の言うことが理解できないのはたしかでしょう?」と反論した。そうした母親は大きな幸せを逃しているだけでなく、知らぬまに自分の赤ちゃんの正常な発達を妨げている〉
*若い母親の不安・不確かさ・ためらい:過度の不安・不確かさ・ためらいが、若い母親には数多くみられる。不確かさは、自然の母性獲得過程が不十分な女性には当然予想されるが、多くの「育児書」を調べることによって「強められる」。(育児書の)矛盾した意見がしばしば無責任な自信とともに示され、不安定になっている母親を「これでいいのかしら」と迷わせる。心配しすぎの自信のない母親が、子どもに悪影響を及ぼし、子どもたち自身をも自信のない心配しすぎの人間にしてしまうことは疑う余地がないようだ。子どもからの思わぬ行動(不思議な行動・困った行動)に対して、母親がどのような反応をしたか(何をしたか、何をしなかったか)ということが、逆に、赤ちゃんが母親に対してどう反応するかに影響する。
*産後うつ症と母子だけの孤独状態:母親をうつうつとした気分にさせるだけでなく、適切な時期に赤ちゃんの相手をする興味を失わせ。自分を家庭に縛りつけるということで赤ちゃんを責めるような気分にさえさせるかもしれない。
*人工栄養の機械的な授乳:母乳栄養の場合、赤ちゃんと母親も顔が互いに向かいあい(触れあい)さらに飲ませている間じゅう、ちょっとした具合をなおす動きを双方とも数多くしている。(顔と顔、皮膚と皮膚による相互作用)人工栄養の場合(その姿勢や位置を母乳栄養の場合と同じようにしないと)、母子の間に必要な相互作用に重大な(非常に有害な)欠落を生む。赤ちゃんの注意を母親からそらすという傾向を強化してしまい、おそらく音に対して「刻印づけする」結果になるのではないか。多くの自閉症児が音楽一般あるいは特定のレコードに「なぐさめ」を見出し執着しているようだ。
*知的な仕事への関心に伴う赤ちゃんの世話の不足:自閉症の発生に寄与している、まちがいなくたいへん重要と思われるもうひとつの要因は、両親がともに「高度の知的能力を要求する面白い仕事に就いている時に起こるような状況である。母親が、気持ちを仕事に向ける分だけ、赤ちゃんに対する注意と世話は妨げられる。単に、赤ちゃんの身体的世話動作を忠実に行っているだけでは不十分なのである。
*子どもの精神衛生の観点からすると、そのような女性(職業婦人)は、理想的には仕事をするか家庭をもつか、どちらかに決めるべきである。(理想的な解決は不可能かもしれない)
*陽気な雰囲気の思いがけない重要性:「まじめな」「何かに心を奪われている」親は、情緒的にも知的にも子どもをひどく傷つける。(こういった両親や家族の欠点は、まさにこのまじめさそのものである)拡大家族、近隣集団の陽気な雰囲気、冗談を言ったり笑ったりすること、からかいあうこと、かつぎあうこと、冗談やしゃれの素早い応酬などは、幼い乳幼児にとっても、とてつもなく重要である。「じゃれ遊び」や、体を使っての「ばか騒ぎ」や冗談などは主として父親の役目である。
*両親の離婚:両親が生別もしくは死別し、残った片親が、配偶者の喪失に対する反応として、子どもを無視したり拒否したりするときは、自閉症の発生要因になりやすい。親がずっとついていることによって子どもが対人接触を求める気持ちがひき出され、子どもが求めてやまない反応が得られない(拒絶される)という(くり返される)失望の経験と結びついている状況である。
*一貫したルールやしつけの欠如:一貫した「日常のきまり」・秩序、規則性の欠如は、非常な悪影響をもちうる要因となる。筋の通ったいくつかの規則のもとで生活することは、子どもに「安心感」を与える。
*子どもへの高すぎる期待と多すぎる要求:自分の子どもに対して高望みをし、まだヨチヨチ歩きの頃から冒険心、勇気、知力(学校では「できること」)を期待したり要求したりする傾向が、子どもに圧力として働き、子どもを不安に陥れ、自信をもって行動することを妨げる。この圧力は必ずしも自閉症発生要因になるわけではないが、他の多くの圧力と同様、もっと広い全体的発達の文脈の中でみるべきだと認識することが重要である。
*両親間で、あるいは周りの環境と、別の国語を使うこと:父親と母親が二つの別の国語で話し、互いに相手のことばは使えないという場合、赤ちゃんは混乱し動揺してしまうという話がある。このことと、親とともに外国に移住した後の幼い子にみられる「自閉型の」退行という事実はともに、時として自閉症発生に寄与する要因になりうるのではないかと思わせる。


《感想》
 以上が、著者による暫定的な【自閉症を発生させる要因のリスト】である。中でも私が注目するのは、①出産時、出産直後の出来事、②高層建築などの建物の中に切り離された住居、③若い母親の不安・不確かさ・ためらい、という項目である。この書物が刊行されたのは今から30年前だが、そうした「要因」は、ますます増長・拡大されるばかりで、現代に生まれてくる赤ちゃんのすべてが、自閉症発生要因に満ちあふれた環境の中で育っているのではないか。だとすれば、「自閉症」の発症を予防することが喫緊の課題になってくるだろう。今では「自閉症」に「注意欠陥多動性障害」「学習障害」というレッテルも加えられ、それらを一括して「発達障害」などと総称されているが、事実、その(幼児の)出現率は以下の通り「恐るべき数字」が示されている。〈いわゆる軽度発達障害を学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能広汎性発達障害(HFPDD)、軽度精神遅滞(MR)と定義し、5歳児健診を基盤として発生頻度を調査した。その結果、鳥取県の5歳児健診(1015名)では、軽度発達障害児の出現頻度は9.3%であった。栃木県の5歳児健診(1056名)でも8.2%という出現頻度であった。また、こうした幼児の半数以上が、3歳児健診では何ら発達上の問題を指摘されていなかった。〉(厚生労働省ホームページ)また学齢児段階でも、文部科学省の調査によれば出現率6.3%ということである。そのすべてが「自閉症」ではないとはいえ、30年前に比べて、事態が「改善」されている(「自閉症児」の出現率が減っている)とは、とうてい思えない。以上が、私の率直な感想である。(2013.11.26)