梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症 治癒への道」解読・《10》第5章 何が子どもを自閉症にするのか(1)

《第5章 何が子どもを自閉症にするのか》
◎要約
【はじめに】
・自閉症の病因、発生をどう理解したらよいかという問題について、①最初に自閉的逸脱ないし脱線を起こさせるものは何なのか、②不可避と思われているその後の荒廃を起こすものは何か、という二面に絞って論じたい。
【発症と進展】
・おかしいと思った時にはかなり進行している。
・初期の自閉症の客観的情報は少ない。(最も客観的な方法は「家庭映画」である)
・「生まれたときからおかしい子」と、のちに逸脱していく子
*オーニックが記述する自閉症児の行動様式(生後6か月まで:「要求が少ない」「母親に気づかない」「反応性微笑は現れないか遅れる」「抱き上げられることを予期する反応が現れない」「おもちゃに反応しないのに掃除機、洗濯機、電話の音には過度の反応をする」、6か月から1歳まで:「固形食に異常な反応を示す、ザラザラした舌ざわりの食べ物を拒否する」「おもちゃを与えると払いのけたり落としたりする」「あまり人になつかない」「人見知りをしない」「非言語的なやりとりが見られない」「突然の音や大きな音でイライラしたりパニックを起こしたりする」「音以外の感覚にもいやがることがある」生後2歳~3歳:感覚路についての刺激を求めお決まりの動作をする。「歯ぎしり」「自分の手や指をじっと眺めている」「つま先立ち・歩き」「物をくるくる回す」「クレーンハンド」、5歳~6歳:感覚刺激に対する激しい反応と奇妙な形の動きが目立ってくる。ことばの異常が一番気になってくる。「しゃべらない」「代名詞の転用」、6歳を過ぎると、これまでの症状が続く子と、合併症を疑わせるような新しい特徴が現れてくる子のタイプに分かれる。5歳までにことばをコミュニケーションに使えなかった場合、以後のことばが伸びてくる可能性はきわめて乏しい。
・オーニックの記述には、細かいことが山のように報告されてはいるが、全体的な生育史については、はっきりしない。
【解釈】
・異なる見解:これまでの研究で問題になっている論点:⑴「遺伝か環境か」⑵「器質的」原因説(その「器質的」欠陥は遺伝か後天的か、「器質的」に対応する対極的な概念は何かが、はっき説明されていない。おそらく「機能的」(不全)と考えているのだろうが、
この遺伝と環境、器質的と機能的という「対比」は、その性質が異なることであることを識別していないと混乱が生ずる。「自閉症は早期の環境的要因による外傷的経験によるものでは《なくて》器質的な欠陥によるものである」という「対比」は誤っている。「器質的」欠陥は遺伝的要因によるものであることもあるし、環境的要因によるものであることもあるのであり、ときおりしばしばみられる機能不全も同様だからである。また「器質的」という分類名はあまり有益ではない。妊娠中に風疹にかかった母親の子どもは、自閉症になる率が高い。このような子どもは「先天性風疹」といわれるが、何が自閉症への逸脱の引き金になったかを理解するにはほど遠い。その関係に関する専門家(チェス。コーン、フェルナンデス)の著書の中では、自閉症が発生したのは生まれつき聾の子どもだけであったと述べられている。一義的には「器質的」だが、肝腎な自閉症とのつながりに関しては、聾であるため母子間のコミュニケーションの回路の一つが利用できず、そのために母親との親密な関係を作ることが子どもにとって格別に困難であったという事実によることもありうる。⑶「末梢性」「中枢性」という対比もあるが、末梢性の徴候は、中枢的な問題が治療されれば消えてしまうことが多い。
・自閉症は「中枢的」「機能障害」である。
・自閉症が純粋に遺伝的である可能性はごく少ない。(⑴染色体異常その他の遺伝的異常に関する直接的な証拠はない。⑵(動植物の研究者が行う)大規模な計画的品種改良実験(のような方法でなければ)遺伝的特性を明らかにすることはできないだろう。人類の場合は、その資料はないし、今後も入手は不可能である。⑶一卵性双生児と二卵性双生児を比較する方法は適用可能である。もし、自閉症のような偏りが完全に遺伝的な性質のものであれば、一卵性双生児は常に「一致し」、双方同じ結果を示すはずである。もし、一卵性双生児のうち一方は正常に育っているのに一方が自閉症になったという例が発見されれば、これはその偏りに環境が影響したことを示している。これまでの報告では、7組の「不一致例」、4組の「一致例」が確認されている(フォルステーン、ラター)。
・かかりやすさの一部は遺伝的かも知れない。(他のどんな疾患の場合も同じであるが、自閉症の場合も子どもによってかかりやすさ、ないし素因が異なることは疑いない。このかかりやすさの相違の一部は遺伝的差異によるものかもしれない)
*「先天性の風疹」という場合の「先天性」とは「出生時から存在している」という意味であって「遺伝的に決定されている」という意味ではない。
*感覚的機能不全(音に対して無反応)や運動機能障害(手や足のぎこちなさ)など末梢神経の欠陥の表れは、中枢神経的(実際には「動因の」「情緒的な」)機能の障害に起因することがわかってきた。(子どもの恐れや不安、やりたくない気持ちなどの程度によって変動する)治療は、情緒的均衡を回復すること狙いとした場合の方が、感覚刺激への集中や手足の操作の訓練をする場合よりも、よく成功している。機能障害があるという所見をもとに脳に構造的な障害があるという仮説を立てることは、結論への飛躍である。(「神経学的」所見の解釈)
・自閉症をひき起こす原因は主として環境にある。
・なぜ「母親につらくあたる」(ウィング)のか(心因的な要因の一部は両親、とくに母親の行動と関係している。自閉症児の両親は、自閉症に発生に関する心因説を受け入れることが感情的に不可能になってしまう。しかし、心因説によってひき出された治療法によって子どもの回復の(あるいは自閉症を未然に防ぐことの)可能性が大きくなる。子ども達の利益は最優先すべきである。もし何人かの母親を傷つけるか、それともたくさんの子どもを悲惨ならせん状悪循環から救うのをやめるか、のいずれかを選ばなければならないとすれば、「母親につらくあたる」ほうを選ぶほかはない。
・正常な子から重い自閉症児までが連続線上にある。(①ある種のごく特殊な環境下では、ほとんどすべての正常な子どもたちが、軽い、時には強い、自閉的な行動を見せることがある、②重い自閉症児もある種の環境下では、少なくとも限られた時間内は、正常な子どものように行動する。実際に存在するのは、正常な子どもから、ちょっと「はずかしがりや」ないし「臆病な」あるいは「こわがり」の子ども、そしてたいへん軽度からやや軽度の自閉症を経て重い自閉症へとずっとつらなていく「連続線」である。
《自閉症発生要因リストの見方》
・子どもを自閉症にするには、さまざまな要因のすべてが必要なわけではない。影響を受けやすい子どもにとってはそれらのうちのほんの二、三の要因だけで平衡を崩しうるし、その二、三も子どもによってまったく異なりうる。ある事例においてどういった要因の組み合わせが決定的なものとなるかは、子どもの性質と、子どもがたまたま出会っている条件によって決まってくる。
・このリストは(一部)は、確固たる証拠に基づいたものというよりもむしろ暫定的なものであり、直観に基づいたものである。
*「自閉症発生要因」のいずれかの組み合わせによって、中枢の状態が「不安優勢」(中枢性動因不均衡)になり、さまざまな症状の発現につながる。


《感想》
 カナーやベッテルハイムが、自閉症の発生要因を両親の育て方にあると提唱したが、「ほとんど受け入れられず 、時にはきっぱりと、唾棄すべきものとして拒否されてきた」。にもかかわらず、著者(ティンバーゲン)はあえて「非遺伝的な、とくに非器質的な、心因性の要因を再検討していくことが必要である」と述べている。その心因性の要因に、両親の育て方が影響していることは明らかだが、彼の「仮説」もまた、親から「受け入れられない」ことは確かであろう。それは、「どちらが正しいか」という科学の次元ではなく、「感情的な」「非ー合理的な抵抗」による「政治的」なレベルの対立の結果ではないだろうか。事実、日本でも「親学推進協会」なる法人があり、高橋史朗氏という「教育学者」が「親が変われば子どもも変わる」ことを提唱しているが、近年では、以下のような事例もあった。〈親学に関しては、非科学的であり、障害者への差別・誤解を生むものだ、という指摘があり、批判を受けている。特に、発達障害が伝統教育で治療可能であるという主張は、ゲーム脳などと同様に何ら科学的根拠はないか、むしろ明確に否定されている疑似科学である。ただ、その内容が保守層の政治的信条に近いこともあり、大阪市では大阪維新の会は「家庭教育支援条例」案を提出した際に高橋の助言を受けて条文を検討、作成していた。この条例案は、一般に知られることになった時点で、医師や発達障害児の保護者から、内容が「学術的根拠がない」「偏見を増幅する」との批判を受け、維新の会代表である橋下徹大阪市長も、批判に同調しつつ条例案に否定的なコメントを述べたため、維新の会大阪市議団はいったん謝罪その後、この条例案を撤回した。〉(「ウィキペディア百科事典・高橋史朗」のページから引用)さればこそ、ノーベル医学生理学賞受賞者・ティンバーゲン博士の「仮説」もまた、(高橋氏の「親学」同様に、同程度の類として)「非科学的であり、障害者への差別・誤解を生むものだ」と、唾棄されてしまうのだろうか。(2013.11.25)