梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・白いカーネーション

 五月といえば端午の節句、鯉のぼりが空に舞い青葉の美しさが際立つ季節だが、私の心は曇っていた。恒例の「母の日」がやって来るからである。小学校2年の時、担任の先生は「お母さんのいない人は、天国のお母さんに感謝しましょう」と言って、私と、K君、H君に「白いカーネーション」を手渡した。「自分だけではない」と私は安堵した。しかし、物心ついた時から母の姿を知らない私には、感謝する術がない。やり場のない憤りが渦巻くばかりであった。翌年であったか、K君のカーネーションが赤に変わっている。「あれ、白じゃないの?」と問いかける私に、K君はうれしそうに答えた。「新しいお母さんが来たんだもん」。H君は依然として白のままだったが、最近になって実母が現れた。「生別」の期間は長かったが「親子の絆を断ち切ることはできない」と言って、H君は「老老介護」を始めたそうだ。その心中や如何、憤怒・悔恨?、それとも感謝?、私には思い計ることができない。(2015.4.5)