梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・11

b 形式名詞あるいは抽象名詞
【要約】
 普通の名詞は、話し手が対象の具体的なありかたをとらえた上での表現だが、対象を具体的なありかたとしてとらえられない場合、簡単にしか表現できない場合、簡単に表現して足りる場合には、抽象的に表現することがある。
 どちらの場合にも、とりあげた対象は具体的に存在するものだから、そのありかやありかたをのべておかないと、聞き手はわからないので、この種の名詞は代名詞の下に使ったり、ほかの具体的な表現を添えたりしなければならない。この種の名詞を形式名詞とか抽象名詞と呼ぶ。
《例》
(もの)→カブキってどんなもの? 今の歌舞伎役者の実力じゃ、まあそんなものだな。(点)→どの点がわからないのですか? その点はくれぐれも気をつけたまえ。
(折)→何かの折におとどけください。 その折は失礼しました。
(わけ)→どんなわけで行かないのでしょう? そんなわけだから許してくれ。
(こと)→何かことが起こったらしい。 そのことは絶対秘密だぞ。
(はず)→そんなはずはない。
(ため)→何のために死んだか。
(まま)→そのままにしておけ。
(たび)→このたびはお世話さま。
(ま)→このまにぬけだそう。
(よう)→そのような場合は別だ。
(ゆえ)→それゆえに忠告する。
(ところ)→ここのところが問題だ。


【感想】
 形式名詞、抽象名詞とは、対象の具体的なありかたを表現するのではなく、抽象的に表現する場合に使われる「名詞」であることがよくわかった。それは、同時に、話し手の《とらえかた》を表すものであり、話し手の「認識」(のありかた)が反映されるということであろうか。 
 私たちの日常会話の中では、この種の形式名詞は頻繁に使われており、相手の話を理解するための重要な語だと思われるが、あらためて「その意味は?」と問われると、説明することが難しい。また、「対象の具体的なありかたの表現でない」とすれば「代名詞」「形式用言」の機能とも共通しているように思われるが、著者はその差異をどのようにせつめいするのだろうか。興味を持って読み進めたい。(2018.1.10)