梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大相撲「日馬富士事件」の核心

 大相撲「日馬富士事件」の核心はどこにあるか。さまざまな論議が取りざたされているが、ただ一点、明らかにされていないことがある。それは問題の発端となった「出来事」についである。「日刊スポーツ」それをは以下のように伝えている。〈9月下旬の錦糸町のバーで、酒に酔った貴ノ岩はモンゴル出身の若い衆を説教していた。声を荒らげるなどヒートアップしたため、同席していたモンゴル出身の元幕内力士、元十両力士(いずれも現在は引退)らが「ほかにお客さんもいる。力士が大声出したら怖がられるからやめなさい」などとなだめようとした。しかし、貴ノ岩はおさまらず、モンゴルから来日した白鵬の友人もいる中「俺は白鵬に勝った」「あなたたちの時代は終わった」「これからは俺たちの時代」などと言い、口論になった。同席していた元幕内力士は「注意したつもりが、貴ノ岩はでかい声で返してきた。横綱の友人もいたのに…」と振り返る。白鵬を否定されたように受け止めた白鵬と懇意にしている友人は、気を悪くしていたという。後日、同席者によって、事情は白鵬に伝わった。〉(2017.11.19)
 この「出来事」がなければ、以後の問題は生じなかったと思われるので、その真相を明らかにすることが極めて重要である。①貴ノ岩はなぜ若い衆に説教をしたのか、その内容はどのようなものだったのか、②貴ノ岩は若い衆に暴力をふるったか、③貴ノ岩の言動はほかのお客さんを怖がらせたか(犯罪行為に相当するか)、要するに、関取・貴ノ岩の言動は一般社会から非難されるに値するほど「常軌を逸して」いたか、という一点である。
 上の記事によれば、貴ノ岩の行為は「説教」「声を荒げる」(ヒートアップ)、「口論」ということで犯罪には結びつかない。「大声を出して(ほかのお客さんに)怖がられる」ことがあったのか。バーの経営者から訴えがあったのか。また、説教された若い衆から抗議があったのか。そこらあたりが全く不明なのである。もし、「そんなことはどうでもよい」のなら、「出来事」は事件ではなかったということになる。口論で気を悪くした周囲が、貴ノ岩の言動を横綱・白鵬に伝え、白鵬もまた「気を悪くした」、それが事件の発端になったと考えてよいか。「出来事」があったのは9月下旬、九月場所の最中であったとすれば、情けない話である。ちなみに、その場所は白鵬、鶴竜、稀勢の里は全休、日馬富士は11勝4敗で逆転優勝、貴ノ岩は8勝7敗という成績であった。白鵬がいう「膿」は溜まったまま、まもなく初場所がはじまる。(2018.1.9)