梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

親方・貴乃花の「公憤」

 日本相撲協会の親方・貴乃花が理事を解任された。横綱・白鵬は昨年の九州場所千秋楽、優勝インタビューで「膿を出し切ったほうがよい」と述べたが、これで一件落着となれば、まさに白鵬の思うつぼ、膿とは親方・貴乃花に他ならなかった、ということが証明されたわけである。しかし、この結末は誰が考えてもおかしい。暴行・傷害の被害者である貴ノ岩と親方・貴乃花が膿だという根拠は何か。被害届を警察に出しながら協会への報告を怠った?協会からの事情聴取に応じなかった?八角理事長の電話を拒否し続けた?バカを言ってはいけない。いずれもそれらは、協会主流派の「私憤」に過ぎない。貴乃花は角界に根強く蔓延る、暴力是認、馴れ合い、八百長などなどの膿を出し切ろうとしただけである。角界浄化を目指す「公憤」であり、そのためには、まず理事相互のの馴れ合いを断ち切らなければならないと考えただけのことである。理事会を監視する評議委員会議長は、貴乃花の言動を「公益法人役員の忠実義務に大きく違反している。(貴乃花親方の行動で)今回の問題がここまで大きくなり長引いている」と批判したが、そもそも《今回の問題》とは何だったのか。その問題を貴乃花(の行動)が大きくしたという認識は全く的外れである。今回の問題とは、いうまでもなく元横綱・日馬富士が貴ノ岩に暴行を加え傷害を負わせたことである。その場にいた横綱・白鵬、鶴竜が制止しなかったことである。そのことを三横綱が協会に報告しなかったことである。つまり、三横綱は露ほどの問題意識を持ち合わせていなかった。しかし、貴ノ岩、親方・貴乃花は「問題」だと考えたから、警察に被害届を出したのである。問題の解決を司法機関に任せた以上、あとは結果を待つだけ、何も語る必要はない。もし、理事会、危機管理委員会の事情聴取に応じれば、問題の早期解決のために「和解」「示談」に応じるよう(馴れ合うよう)説得されることは明らかであろう。しかし、それでは、膿を出し切ることはできない。傷害事件を起こしても「問題」だとは思わない三横綱に代表される角界の《馴れ合い》こそが膿なのである。
 そのことに、横綱審議委員長、危機管理委員長、評議委員会議長は気づいていたとは思えない。
蛇足だが、今回の問題の取材のために貴乃花部屋を取り巻く報道陣に対して、一言「ご苦労さん」と声をかける礼儀が親方にほしかったなどという戯言がネットで取沙汰されているようだ。報道陣は給料をもらい、視聴率を「稼ぐ」ために取り巻いている。部屋にとっては「迷惑きわまりない」ことを感じとれない報道陣の方が、よほど礼を失しているといわなければならない。(2018.1.6)