梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・身体検査

 昭和26年2月、私は東京の小学校に入学するために上京させられた。まもなく、学校の身体検査(現在の就学時健診)があった。激しい雨の中、親類の女性に伴われて入学する小学校に向かったが、私はすべての検査を「泣いて」拒否した。薄汚れた校舎、厳しい表情で指示する教員、新入生を世話する上級生、東京弁で楽しそうに会話する就学児等々、これまでとは全く異質な環境に恐怖を感じたからである。皆と離れて、私は一人、教頭先生の「面接」を受けた。しかし、私は泣くばかりで一言も応じない。先生は困惑して「知恵は遅れてないようだが・・・」と呟いたことを、今でも憶えている。帰宅後、親類の女性が父に報告していわく「コーちゃんたら、ずうっと泣き通しで、何もできなかった。こんな恥ずかしい思いをしたのは初めてよ」。やはり、東京でも私は「期待外れ」だったのである。(2015.3.30)