梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「国語学原論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・22

《三 母音子音》
 音節の分節を規定するものは、リズム形式であり、具体的には調音の変化によって経験的音節となる。音節の内容(要素)は、単音及び単音の結合により構成されている。音節を構成する単音は、母音子音の二つに類別される。母音子音の類別を、音節構成の機能上から説明したい。それは私のリズム観の第二の発展である。 
 母音子音の概念は、音響学的概念ではなく、音声構成における単音の結合機能に基づく概念である。それは、破裂音、鼻音等のような音声の発生条件によって成立した概念とは異なる。母音子音の名称それ自身がこのような機能関係を示しているといえる。悉曇学の名称である能生音、所生音も同様に音節の構成機能の概念である。
 母音子音を決定するものは、各言語の音節組織である。音節組織が異なることによって、単音の結合機能が異なり、母音子音の内容も相違してくる。国語では、ほとんどすべての単音は単独で音節を構成できるので、皆同一だが、単音が結合して音節を構成する場合には、響きによって、ある単音に結合できるものと、できないものの(機能上の)区別が生じる。kaの結合は一音節を構成できるが、akは二音節であって一音節を構成できない。ここにaとkとに結合機能の相違を見出せる。鼻音は音響的に母音と同様であるといっても、kaと同じ方法によってkm、kn、kngのような一音節を構成する機能はない。その点、aiu等とmngとは異なる。しかしma、na、ga等と結合して一音節を構成するので、mngはkと同機能であるといえる。流音も音響的にはaiu等と区別できないといっても、kl、sl等という一音節を構成できないが、la、li等と結合するのでlはkと同じである。
 ヤ行子音であるi、ワ行子音であるuは、ia、uaと結合できるので、子音といえるが、同時にki、mu等と結合する故、母音的機能も持っている。このことから、iuを半母音と名づけてさしつかえない。それは音響的にではなく、母音子音の両機能を兼備しているという意味でそういえるのである。
 国語においては調音の変化毎に一音節を構成するから、一音節内に二重の子音母音は存在しない。二重母音、二重子音はau、ei、ou、あるいはst、sp、slのように、単独の子音母音と同一機能で音節を構成する時にいわれることであり、音節を離れ、また結合機能を離れて二重母音二重子音ということは全く意味がないことである。


【感想】
 著者は「母音子音の概念は、音響学的概念ではなく、音声構成における単音の結合機能に基づく概念である」とし、「母音子音を決定するものは、各言語の音節組織である」と述べているが、母音とは何か、子音とは何かを明確には説明していない。しかし「kaの結合は一音節を構成できるが、akは二音節であって一音節を構成できない。ここにaとkとに結合機能の相違を見出せる」という記述から、kは子音であり、aは母音であるということが窺われる。要するに、一音節を構成できるa、i、u等は母音、構成できないk、m、s等は子音ということになるのだろう。それ自身単独、または他の単音と結合して一音節を構成できるものは母音、そうでないものはすべて子音という理解でいいのだろうか。
その解釈にあまり自信をもてないが、そのような問題意識をもって、読み進めることにする。(2017.9.22)