梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

道徳「教科化」(学習指導要領改訂案)の《誤り》

 文部科学省は、「道徳」の学習内容に、「節度、節制」「親切、思いやり」「国や郷土を愛する態度」「生命の尊さ」といった徳目(キーワード)を加え、《教科化》するという「学習指導要領改定案」を公表した。しかし、それは、「教科別の指導」と「領域の指導」を混同しているという点で、《完全な誤り》である。「教科別の指導」は、「知識や技能」を、一定のコマ(学習日課表・時間割)の中で、「座学」(机上学習中心)として展開する。一方、「領域の指導」は、学校生活全体の中で、実生活・活動を通して、ダイナミックに展開する。たとえば、「学校教育法第18条」では、小学校の目標について、以下のように規定されている。
一  学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と協同、自主及び自律の精神を養うこと。
二  郷土及び国家の現状と伝統について、正しい理解に導き、進んで国際協調の精神を養うこと。
三  日常生活に必要な衣、食、住、産業等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
四  日常生活に必要な国語を、正しく理解し、使用する能力を養うこと。
五  日常生活に必要な数量的な関係を、正しく理解し、処理する能力を養うこと。
六  日常生活における自然現象を科学的に観察し、処理する能力を養うこと。
七  健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的発達を図ること。
八  生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
 これらの目標は、①「~精神を養うこと」、②「~理解と技能を養うこと」、③「~能力を養うこと」に大別されるが、その目標を達成するためには、それぞれの方法(指導形態)を工夫しなければならない。①のために「領域の指導」、②③のために「教科別の指導」という形態をとることは、「教育課程」の《常識》である。言うまでもなく、「道徳」は、上記目標の一、二を達成するために設けられた「領域」であり、「教科《化》」することはできない。「領域」には他に、「特別活動」があり、そこでは、「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」(教育基本法第一条)という教育の目的を目指した「活動」が展開される。いわば「特別活動」で、《行動能力》を養い、「道徳」で《精神》を育てる、といった「表裏一体」の関係が存在する。従来の「学習指導要領」では、「特別活動」の(ダイナミックな)《活動》を通して、「道徳」(心)を育てることが企図されている。子どもたちは「特別活動」での様々な(集団的)「活動」を通して、友だちとの対立、葛藤を「経験」し、それを「道徳」で省みることによって、相手の立場を理解したり、協力し合おうとする「気持ち」(精神)を、(みずから)育てていくようになることを目指しているのである。
 今回の改訂案では、そうした(学校生活全体の中で行う)「領域の指導」、「道徳」と「特別活動」の関係を《無視》して、「道徳」だけを切り離し、(「道徳科」を)〈最上位の教科として学校教育の中核〉(「東京新聞・「社説」・2015年2月6日)に位置づけようとしている。それは《完全な誤り》である。(2015.2.6)