梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

政治家の《笑い》

 フランスの劇作家、マルセル・パニョルは「笑いについて」(岩波新書)の中で、人間の笑いには三種類ある、と述べている。その一は強者が弱者を見下す笑い、その二は弱者が強者を皮肉る笑い、その三は同等の人間同士が喜びを共有する連帯の笑い、である。その一には「嘲笑」「哄笑」、その二には「冷笑」「嬌笑」(媚笑)、その三には「微笑」「談笑」などがあると思われるが、政治家の「笑い」とはどのようなものであろうか。
 私の独断と偏見によれば、国会審議中に見られる笑いは、ほとんどがその一である。相手を見下し、さげすみ、「そんなことも解らないのか」という意味が含まれている。本人は得意満面、勝ち誇ったように笑う。また、選挙運動中に見られる笑いは、ほとんどがその二である。楽しくもないのに媚びを売る。愛想を振りまいて自分を飾り立てる。当選した途端、たちまちその一に豹変する。「バンザイ」などと叫びながら「高笑」する。しかも、それらの姿がいかに見苦しく醜いかということに気づいていない。
 政治家の使命は、今、国民がどのような笑いを笑っているかを見極め、国民の間にその三の笑いが少しでも増えていくように努めることである。その一の笑いが増えれば増えるほど、その二の笑いも増えることは必定、その分だけ、その三の笑いが減っていくことを肝銘しなければならない。政治家たちよ!自分の姿を鏡に写してみよ。国民からその二の笑いを浴びていないか。まさに《笑っている場合ではない》のである。
(2017.2.2)