梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「テロは断じて許さない」、その《結果》

 東京新聞朝刊(1面)に、「アルジェリア『人質23人死亡』内務省発表 軍事作戦が終了」「『9邦人殺害見た』現地従業員とAFP」という見出しの記事が載っている。要するに、〈アルジェリア南東部のガス生産施設をイスラム武装勢力が襲撃、日本人を含む多数の外国人が人質となった事件で、アルジェリア内務省は19日、同日終了した3日間にわたる軍事作戦で、人質23人と武装勢力32人が死亡したと発表した。発表は暫定的なもので今後、さらに犠牲者の人数が増える可能性がある〉(カイロ=有賀信彦)という内容であった。この事件に関して、〈安倍晋三首相はアルジェリアのセラル首相電話で会談。セラル首相は「すべての作戦が終了した」と説明。安倍首相は「わが国はテロは断じて許さない。同時に、人命を最優先するべきだと申し入れてきた。厳しい情報に接することになったのは残念だ」と伝えた。セラル首相は「このような結果になり、遺憾だ」と述べた〉(同紙・2面)という記事も載っている。両者ともに、今回の結果を「残念」「遺憾」と評しているところをみると、作戦は「失敗」に終わったようである。しかし、一方「テロは断じて許さない」という観点からみると、「武装勢力32人が死亡」という事実は、作戦の成果(「成功」)ではないのか。重要なポイントは、ただ一点、「テロは断じて許さない、同時に人命を最優先するべき」という安倍首相の見解・主張は、文字通り「机上の空論」、現実においては、「つゆほどの説得力もなかった」ということである。セラル首相は、安倍首相の「テロは断じて許さない」という申し入れに、忠実に従った。その結果、武装勢力と人質の「人命」は、襤褸切れのように捨てられたのである。「軍事作戦」(戦争)とは、(所詮)「人を殺す」ことである。自民党の石破茂幹事長は、〈アルジェリアの人質事件を踏まえて、海外での動乱などに在外邦人が巻き込まれた場合に、自衛隊による救出を可能にするための自衛隊法改正を検討する考えを示した〉(同紙・2面)そうだが、はたして、戦争を知らない「御曹司」連中に、「人を殺す」ことができるだろうか。「テロは断じて許さない」などという妄言を吐く前に、「人の命は地球よりも重い」という至言の意味を噛みしめるべきである。
(2013.1.21)