梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「カウントダウンの人生」

 「もういくつ寝るとお葬式・・・」、私の「カウントダウンの人生」が始まった。もはや「世のため人のため」にできることは何も無い。誰もが「せめて他人様に迷惑をかけないよう、世の中の邪魔にならぬように」と考えるに違いない。しかし、それは無理な話である。他人にとって自分は邪魔な存在であり、そのこと自体がすでに迷惑千万なのである。「とかくメダカは群れたがる」というように、人は集団を求めるが、同時にそのメンバーとの対立・葛藤を繰り返す。そのことを「生存競争」と言う。競争だから首位もあれば末位もある。競争はビリでいい。ビリがいい。最下位が一位を支えているのだから。
 駄文を綴り始めて十年余が過ぎた。まだ見える。手も動く。釈迦牟尼仏は法句経で〈無益な語句を 千たび語るよりも 聞いて心の静まる有益な語句を 一つ聞く方が すぐれている  無益な語句よりなる詩が 千もあっても聞いて心の静まる詩を 一つ聞く方がすぐれている〉(「智恵のことば」・浄瑠璃寺住職・佐伯快勝著・淡交社・2008年)と説いている。その教えに逆らって、未だに私は「無益な語句を千たび」語っている。言うまでもなく、その語句を聞く人はいない。つまり、私の駄文はつねにビリなのだ!
 それでいい。それがいい。《本当にそれでいいのか、この恥知らず!》という叱責が聞こえる。・・・、しかし煩悩の火を消すことができない。それが「カウントダウンの人生」なのである。(2017.1.5)