梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大阪の「自転車」

 大阪は「過ごしやすい」街である。「商人の町」と言われるほどに、大小様々な(個人経営の)店舗が「綺羅星のごとく」居並んでいる。たった100円の商品にも、売り手の心尽くしとぬくもりが感じられる。開業時間は早朝から深夜まで、何一つ不自由はない。つまり「便利な」街なのである。とは言うものの、それでは、はたして、大阪は「住みやすい」街であろうか。私は、生まれてこのかた(60有余年)大阪に住んだことがないので、何とも言えない。時折、旅に出て、数日間滞在することはあるので、その印象を端的に言えば、大阪は「怖い」街である。何が怖いのか。それは「自転車」である。人は歩道、車は車道を通行するのが世間のしきたりだが、大阪では、自転車が堂々と歩道を走り回っている。文字通り「我がもの顔で」という表現がピッタリという感じで、歩道は自転車のためにあるようなものである。たしかに自転車は便利である。「便利な」街にふさわしい、うってつけの乗り物であろう。さらに言えば、大阪人は「せっかち」である。鉄道の自動券売機に硬貨を1枚ずつ入れるのがもどかしく、挿入口を大幅に拡げたのも「大阪が始まり」と聞いている。今、私は大阪の某喫茶店でこの駄文を綴っているのだが、のべつまくなく、ひっきりなしに客が入ってくる。しかも一杯350円のコーヒーを一気に飲み干すやいなや、ものの5分もたたないうちに、そそくさと立ち去っていく。そんな「せっかち」な大阪人が、「便利な」自転車に乗ったらどんなことになるだろうか。歩道を歩いていると、背後から疾風のように、自転車が全速力で追い抜いていく。おそるおそる後ろを振り返ろうものなら、次の自転車からは「オッサン、ナニ後ムイテンノヤ!ぼやぼやしとるとケガするで!」と怒鳴られることは請け合いだ。なんと恐ろしいことであろうか。昨今では、全国的にも自転車事故が多発、その安全対策が取り沙汰されているようだが、自転車は、あくまで「車」、車道を走るのが「常道」(原則)であろう。「飛び出すな!車は急に止まれない」、「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」。いずれも交通安全の標語だが、はたして大阪の街は、そのどちらを標榜するのであろうか。大阪の「自転車」よ!堂々と車道を「我がもの顔」で走りなさい。事故を起こしたところで、自動車がケガをすることはありません。
(2011.10.21)