梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

教訓Ⅰ・《未来の子どもたちへ》

 今から一万年ほど前、地球という星がありました。そこにはたくさんの生き物が住んでいましたが、中でもHという動物はたいそう力が強くいばっていました。銃という武器を使って他の動物たちを追い払い、容赦なく殺し、食べ、毛皮を剥いで寒さをしのいだりしていました。Hは小賢しい「知恵」を身につけていたので、火をあやつり、様々な道具を発明したりして得意がっていましたが、所詮は畜生の浅はかさ、我欲をおさえきれずに、最後はH同士で勢力を争い合い、全滅してしまいました。そればかりではありません。
地球という星そのものを破壊してしまったのです。動物、植物すべての生き物が犠牲になりました。でも、宇宙にある星は地球だけではありません。他にも美しい、平和な星がたくさんあります。私たちにはHのような「知恵」はありませんが、そのかわりに「愛」があります。「愛」とは、自分以外のものを、自分以上に大切にする「気持ち」です。それは、見ることができません。手に取ることもできません。地球にも「空気」というものがあり、そのおかげでたくさんの生き物が住むことができたのですが、そしてHの「知恵」はそのことを十分に知っていたはずなのに、我欲のおもむくままにその「空気」を汚してしまったのです。私たちはHの歴史から学ばなければなりません。Hは「知恵」をもてあそび、自分たちが万物の霊長であると過信しました。その過信と油断がHを滅亡へと導いたのです。
 私たちも油断をすると「愛」を失います。見ることも、手に取ることもできないので、感覚を研ぎ澄まし、つねにその存在をたしかめる努力が大切です。『自分以外のものを、自分以上に大切にしているか?』、いつもそう問いかけてください。  
 そのおかげで私たちが生きていられるのだということを、肝に銘じなければなりません。もし、Hと同じように自分以外のものをないがしろにし、自分だけを大切にしようとすれば、私たちの未来もまた破滅が待っているだけでしょう。
(2016.12.10)