梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「君たちに憎しみをあげない」

  パリ同時テロで妻を失った仏人ジャーナリスト、アントワーヌ・レリス氏がフェイスブック上に綴った「君たちに憎しみをあげない」という文章を読んだ。この文章は19日現在20万回以上共有され、世界中に共感が広がっているという。私もその共感者の一人だが、まず何よりも、テロリストに向かって「君たち」と呼びかけている点が素晴らしい。レリス氏はテロリストとの間に「私→君」という二者の関係を築いた。しかも、その関係は「憎むつもりはない」という《対話の関係》なのである。「君たちは、神の名において無差別な殺戮をした。もし神が自らの姿に似せて我々人間をつくったのだとしたら、妻の体に撃ち込まれた銃弾の一つ一つは神の心の傷となっているだろう」という一文に、「君たち」はどう応えるのだろうか。「君たちの望み通りに怒りで応じることは、君たちと同じ無知に屈することになる」という件(くだり)に、私の涙は止まらなかった。さらに、レリス氏は、天国に召された妻との愛を確かめながら、生後17カ月の愛息に思いを馳せる。「私と息子は2人になった。でも世界中の軍隊より強い」。なぜなら、私も息子も「君たちに憎しみをあげない」からだ。この(憎しみの連鎖を断ち切る)《不戦の誓い》こそが、世界最強であることを、私は学んだのである。リレス氏は、未だ34歳の若きジャーナリストだが、そのメッセージがより多くの人々に染みわたり、人類の歴史が「戦争」から「対話」の時代へと変革されて行くことを期待する。
(2015.11.20)