梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「布財布」譚

 落としたものやら、掏られたものやら・・・、愛用の布財布が忽然と消えた。スーパーで買い物をし、自動支払機で精算するときまでは確かにあったのだが・・・。代金は1400円余り、財布から五千円札を挿入して釣り三千円を戻した。他に一万円札が2枚入っていたと思う。そこまでは記憶している。次はコンビニでタバコを買う予定、頭の中で「たしか五百円玉が小銭入れにあった。釣り銭の五百円玉と合わせて1000円になる。それでタバコを買えばよい」と考えた。財布をチェストバックにしまい、五百円玉を二つ握りしめてコンビニに向かった。チェストバックは肩に紐を回して背中側に背負う。およそ100メートル歩き、コンビニでタバコを買った。「あとは自宅に戻るだけ」と思って、100メートル戻り、スーパーとは反対側にある渡線橋にさしかかる。そこを登り始めたとき、ふと背中のバックから紐が垂れていることに気がついた。よく見るとチェストバックの口が開いている。中には薬袋、タブレット、老眼鏡が入っていたが、財布だけが無い。「落としたか!」と思って、辿った道を探しながら、コンビニまで引き返し店員に尋ねたが「わかりません」と言う。さらにスーパーまで戻って自動支払機担当の店員にも尋ねたが「届いていません」と言う。財布には現金の他、銀行のキャッシュカードが2枚、その他のポイントカードが入っている。すぐに自宅に戻り銀行の紛失センターに電話した。「カードの取引は停止しました。再発行の手続きをしてください。手数料は1030円かかります」という言葉で、一安心したところである。
 それにしても、あの布財布はどこに行ってしまったのだろうか。およそ七、八分の間に忽然と消えてしまった。・・・・、次は「命を落とす」番である。覚悟を決めなければならない。(2016.10.4)