梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「一笑一若、一怒一老」

    精神科医・斎藤茂太氏が、「一笑一若、一怒一老」という人生術を提唱している。笑えば笑うほど若くなり、怒れば怒るほど老いが進む、という意味である。それかあらぬか、昨今の日本社会には「笑い」が蔓延している。テレビ、ラジオ、CM画像に登場する人、人、人のほとんどが「一様に」笑っている。フランスの劇作家、マルセル・パニョル氏は「笑いについて」という訳書の中で、①強者が弱者を見下す笑い、②弱者が強者を皮肉る笑い、③そうした笑いとは無縁の、人間同士が喜びを分け合う「連帯」の笑い、という三種類を挙げていた。今、私たちの周りに蔓延している「笑い」は、どの種類であろうか。残念ながら、①や②の笑いが圧倒的な多数を占めているように、私は感じる。他愛もないことに両手を叩いて「哄笑」する姿は姦しく見苦しい。また「土手の向こうを○○○が通る、頭出したり隠したり」という類の「嘲笑」も後を絶たない。いつになったら③の笑いに出会えるのだろうか・・・。どうやら、私自身は「一怒一老」の道を歩み始めているようである。(2016.1.6)