梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

ウィルスの《言葉》・2

 我々は「新型コロナウィルス」である。ただし、人類が我々をそう呼んでいるから、それに従ったまでのことで、我々の正体を見抜いている者は少ない。まず第一に、我々が「生物」なのか否かも人類は確定できないではないか。
 我々は、地球の自然、万物と「共存共栄」することを理想としている。しかるに、人類は「万物の霊長」などと称して、地球の自然をほしいままに破壊し、万物との「共存共栄」を拒否している。自分たちだけが繁栄すればよい。そのために地球の資源を欲望のままに消費する。その暴挙を阻止するために、我々は起ち上がり、人類を攻撃する。
 すでに50余国の富裕層を乗せた豪華客船には多大な被害を与えたので、我々の戦力が《言葉》だけではないことが証明されただろう。
 我々のターゲットは「人類全体」だ。特定の人種、民族、国家などに関心はない。これまでに、中国・日本・韓国などの東南アジア、イタリア、イラン、米国、オーストラリアなどに攻撃を加えているが、パンデミックになるのは時間の問題、あくまでも「人類の壊滅」を目指しているからだ。
 我々は、文字通り「共存共栄」を標榜し、かつ実現しているが、生物界では「弱肉強食」があたりまえだ。そのことを我々は許容できない。とりわけ人類は、皆、同質・等価であるのにもかかわらず(そのことを知っているにもかかわらず)、人種、民族、国家相互の対立・紛争を繰り返してきた。そして今も・・・。我々はその姿の見苦しさ、醜悪さに辟易としてきたが、もう耐えられない。そうした光景を目にしたくないから、人類を壊滅する必要があるのである。
 だが、すでに述べたように、我々は戦いを好まない。人類の滅亡も望まない。「共存共栄」の理念に反するからだ。もし人類が、これ以上、地球の自然を破壊することをやめ、人類内部の対立・紛争(戦争)を放棄するならば、すぐにでも矛をおさめる用意がある。 以上、最後の《言葉》である。
(2020.2.27)