梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・浄瑠璃寺

 高校二年の春休み、知友六人で京都・奈良・大阪方面を訪れた。一足早い「修学旅行」を気取っていたが、リュックサックにテント持参、食糧はアメヤ横町で調達、早朝の鈍行列車で東京駅を出発、京都、木津を経て加茂駅下車、そこから徒歩で浄瑠璃寺に向かう、10時間以上かけての「山行」であった。私たちは近隣農家の許可をもらって参道入口脇の窪地にテントを張った。境内を散策、本堂の九体仏、吉祥天立像を拝観した後、食事はコッヘル、アルコールコンロで調理した。二日目も、浄瑠璃寺にとどまり、三重塔に佇んで浄土式庭園の空気を十分に堪能したのだが、夕方から降り出した雨が激しくなり、雨水が窪地のテントの中に容赦なく流れ込む。やむなく私たちは近隣農家の車庫で一夜を過ごすことになった。農家の御主人いわく「車庫ならカマヘンヨ。ゆっくりオヤスミ」。東京から闖入した得体の知れない若者たちを快く招き入れてくれた温情は、今も忘れられない。
(2015.5.2)