梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

天皇の《復権》

 大日本帝国憲法第一條には「大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス」、また、第三條には「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」とある。(「万世一系」とは「永久に一つの系統が続くこと」だから)天皇は永久に大日本帝国を統治し、しかも神聖だから侵してはならないという規定である。つまり「天皇主権」主義である。しかし、敗戦の翌年(1946年元旦)、昭和天皇は「新年ニ當リ誓ヲ新ニシテ國運ヲ開カント欲ス國民ハ朕ト心ヲ一ニシテ此ノ大業ヲ成就センコトヲ庶幾フ」という詔書を官報により発布した。その中では、天皇と国民は終始、相互信頼と敬愛によって結ばれ、神話とか伝説によって生まれたものではないから、「天皇は現御神である」、「日本国民は他の民族より優れており世界を支配する運命をもっている」などという《架空の観念》に基づくものではない、と述べられており、「天皇主権」主義は天皇自身によって否定されている。その年の11月3日に「日本国憲法」が制定され、天皇は「象徴」という地位に位置づけられたが、天皇が人間であることに変わりはない。平成天皇が昨今のビデオメッセージの中で「私」「個人」という文言を用いていることからも、そのことは明らかである。
 問題は、天皇(及び皇族)は人間でありながら、「国民主権」の現憲法下にあっては、その「(基本的)人権」が十分に保障されていないという一点に尽きる。天皇(及び皇族)は「国政に関わる権能を有しない」(「選挙権」「被選挙権」「請願権」等、政治活動の停止)。場合によっては「居住、移転及び職業選択等の自由」、「婚姻の自由」「思想及び良心の自由」「表現の自由」までもが侵されるおそれがある。要するに、天皇は「象徴」という、きわめて曖昧な立場におかれたことによって、人間としての尊厳及び国民としての権利を奪われ続けているのである。(事実、昭和天皇はその終焉期において長期間、バイタルサインを公表され続け、プライバシーを著しく侵害されたのであった。)人道上、こうした事態は直ちに改められなければならない。具体的には、「日本国憲法 第一章 天皇」を削除することが肝要である。そのことによって、自動的に「皇室典範」も廃止され、天皇(及び皇族)は「国民」としての権利、人間としての尊厳を取り戻すことができるのである。
 天皇家の歴史は長く125代を迎えているが、つねに時の政治権力に利用され続けてきた。今こそ、「象徴」などという《架空の観念》(「神話・伝説」的呪縛)を撤廃し、平和主義を標榜する民主主義国家の「一国民」として復権を遂げなければならない時なのである。(2016.8.9)