梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・新聞配達

 小学校時代から仲良しのK君が中学2年で新聞配達を始めた。彼は得た賃金で文庫本「次郎物語」を読んでいる。その姿がたまらなく魅力的でうらやましかった。「自分もやりたい」と私は父に懇願し承認を得た。さっそくK君に頼み込み、繁華街周辺の「夕刊配達」を始めた。「読売新聞」に混じって「毎夕新聞」「サン写真ニュース」などという珍しい新聞もあり、届け先は居酒屋、バーなどの飲食店が多かった。時には、「おい小僧、朝刊が来てないぞ!」などと怒鳴られることもあったが、「自分も働き文庫本買うんだ」いう思いが勝り、苦にはならなかった。しかし、それを聞きつけた親類一同は猛反対、「親が小遣いをやっていないようで外聞が悪い」と言う。やむなく父も親類一同に同意した。かくて、以後、私は一切緘黙し、これまで育まれた「父子の絆」は完全に断たれる。その「反抗期」は、大学卒業時まで続いた。今思えばまさに「若気の至り」だが、覆水は盆に返らない。(2015.4.22)